競技スポーツのために
水中運動はリハビリや健康維持のためだけでなく、スポーツ分野での様々な目的のために用いることができます。
〇スポーツ分野での筋力トレーニングとしての水中運動
陸上での筋力トレーニングは、常に重力がかからざるを得ないため、選手には主として運動器官に強度の負荷がかかります。しかし、「浮力」のところで指摘したように、水中の筋力トレーニングは関節部の保護をしながら行うことが出来ます。
更に、運動の速さと運動面の拡張によって抵抗をスムーズに変化させることも出来ます。運動のテンポが2倍になると、消費する力はそれだけで4倍になるといわれます。テンポを変えるだけで運動強度を変えられるのです。抵抗を増加させる様々な用具(ビート板・パドル)を使用したり、手の形を変える(拳を握る・手のひらを開く)ことで、作用する力も変化します。無段階・スムーズに細かく運動強度の変更が可能となり、レベルに合わせた負荷が可能になります。
更に水中での筋力トレーニングの有利な点は、運動全体にわたって運動速度を一定に保ち易いため、負荷のピーク(関節に非常に大きな負荷がかかる作用角度)を生じさせません。運動時間全般にわたって筋肉に常時かかってくる力が運動全体を通して一定に保たれます。
バランストレーニングとして
スポーツの種目によっては、全く又はほんの僅かしか必要とされない筋肉または筋肉グループが存在します。これらの筋肉のトレーニングを怠ると、その筋力の低下もしくは筋肉の短縮が生じ、いわゆる筋力バランスが崩れます。筋力バランスが崩れると、運動の機序にネガティブな影響を生じ、更に悪くするとケガを引き起こすことになります。バランス良く上手に筋肉を鍛えれば、運動の質が向上します。
運動性の向上とは
水中での運動性とは、陸上で行うより容易にトレーニングできることを指します。関節の保護だけでなく、浮力は四肢の自重を軽減するので、筋肉は筋トーヌスを軽減し、よりリラックスし、容易に伸長されるため可動性の向上や可動範囲の拡大が可能になります。
〇水中運動での協調性の改善
バランスをとることは各部位の協調能力であり、特に水中でのトレーニングにはこれを増強するのに適してます。水中で立っているだけでは、最初はほとんど何も自覚することはありません。しかし、体と筋肉は水によって生じる流れや浮力など様々な力に常に対応し、新たな姿勢を作らなければなりません。常にバランスをとることは、筋肉どうしや筋肉の中での協調性・相互の関係性を促進させます。
また、協調させるのに難しい速いテンポの運動性機序を水中ではトレーニングできます。
但し、運動を直接的に水中から陸上へ継続して行う場合には注意を要します。水中では様々な固有受容体は正確な情報を得ておらず、筋肉の弛緩時に生じている受容体の知覚は変容させられていると考えられるからです。
〇持久トレーニングの代替としての水中運動
大きな負荷がかかる競技や長い持久性を求められるスポーツの選手は、運動器官への負の影響を出現させること無くトレーニングの範囲や強度をより一層あげることは出来ません。そのような場合、(胴衣を着けて深い水位で)アクアジョギングは良い代替トレーニングと考えられます。選手はケガをする危険性を下げ、関節を保護しながら心臓循環トレーニングを実施できることになります。更には、水の抵抗による筋力アップとリズミカルな動きが、関節領域の代謝と静脈血輸送を促進します。
〇水中運動での新陳代謝
水には組織の新陳代謝の促進作用があります。水による様々な刺激(温度刺激・圧刺激など)は、血液灌流やリンパ(循環)排液に影響を与え、新陳代謝を強化・活性化させます。マッサージ効果は組織と筋肉でのうっ滞解消と緊張緩和に効果があります。
新陳代謝の活性化は水中でトレーニング中で、すでに始まっています。血液灌流の増大により静脈の循環は鼓舞され、代謝時の生成老廃物の排出は助成されます。筋肉内での代謝の増加は同様に関節の深部の筋肉でも伸長性を改善し、筋トーヌスを低下させ、筋肉は弛緩し、柔軟性を回復します。
〇リハビリテーションと水中運動
怪我をしたどの選手にとっても動けないことは最悪と言えます。彼らは突然に体を自在に出来なくなり、長期間の運動停止にはメンタル的にも意気消沈します。水中では負傷した選手は比較的早くトレーニングを開始でき、肉体的な健全性を回復できる利点があります。
回復運動では、ほとんどの場合、受傷した部分をゆっくり動かし筋力をつけるますが、そうでない筋肉は放って置かれることが多くなります。水中では、膝の負傷のような場合には、負傷した関節に過度の負担をかけずに持久トレーニングを始めることが出来ます。更には体幹部の筋力の回復も行うことが出来るため、トレーニングの大きな遅延を減らすことも可能にです。
水中では庇う姿勢を低減させるため、歩き出しや走り出しの開始がより早期に可能になります。その様な庇い姿勢は後に筋肉のアンバランスをもたらすので、除かれなければならなりません。水中トレーニングを行う場合、大規模な筋肉委縮を防ぎ筋肉バランスを維持するため、最初は深い水位(胸まであるような負荷が大きい水位)でのアクアジョギングが、薦められます。