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HOME | 治療の情報 | 13)症状別の注意

高齢者での注意 

高齢者には老化現象のため様々な運動器や心臓循環系の問題がしばしば発生します。水中運動を始める前に医師の診察を受けたり、危険性のある事柄について事前知っておく必要があります。
特に注意するべきなのは血液循環系疾患では、水中運動は陸上での運動より血液循環系に負荷がかかることです。水は心臓方向へ血液移動させるため血管に圧の増強を促します。そのため心筋に対しての負荷上昇と必要酸素の増加となります。冠状動脈硬化症の人の場合には、心筋に酸素が充分に供給されにくいという併発症が起こります。
高血圧症も同様です:定期的な運動は長期的に見て確かに血圧の低下をもたらしますが、実際には人が水につかると血圧は一旦上昇します。そのため運動の開始時には運動プログラムの量を正確に定めておかなくてはなりません。水の熱伝導率は高いため、体は温度低下に反応して刺激反射によって末梢から体の中心方向へ血液を送り出し、同時に心拍数が減少します。特にβブロッカーなどの心拍数を少なくする薬を服用している場合は、医師に指示を仰ぐ必要があります。年齢に応じて肺胞と肺組織の弾力性は低下し、それにより呼吸が浅くなるためです。ですが、運動によって呼吸の補助筋は強化され、長期に亘って肺活量を改善する効果があります。
水中でのトレーニングはもちろん運動器に対しても良い方向に作用します。特定のトレーニングによって関節部の新陳代謝は確保され、増進されることが出来、退行性現象の進行(いわゆる老化現象)にブレーキがかけられ、運動性能は維持が可能になります。


体重超過 

体重過多の人がスポーツする時には、多くの場合自転車や軽めの運動トレーニングなどといった関節を保護しながらのスポーツに限局される必要があります。これに対して水中では、浮力により体重が軽減されるので、走ったりジャンプしたりすることさえ出来るので有利です。また心臓の血液循環に負荷をかけることで代謝の増強がもたらされます。
水中では温度調整によって付随的に代謝を刺激し、単に立っているだけでも基礎代謝エネルギーは既に高くなっています。脂肪組織の厚さによりますが、25℃程度の水温では代謝エネルギーは20~30%上昇するともいわれます。
食事を抜く方法で短期間にダイエットすることは非常に困難であり、減量は多大な努力を必要とするとても長い過程である事を理解する必要があります。合理的な食餌と多くの運動とにより成果は早期に現れ、継続も可能になります。反対にクラッシュダイエットと呼ばれる極端な方法では、最初の数日内に数㎏減量するが、大変な努力でした食餌制限を止めると短期間で直ぐに全てが再び増加に転じます。体は「飢え疲れ」て、運ばれてきた全ての物をなおさら摂取しようとするのです。
炭水化物性栄養は蓄積された全てが燃焼しますが、脂肪は90分後に初めて燃焼を開始する。体重を落とそうとするならば、最大心拍数の50~60%で、出来うる限り長時間の運動を行うべきでしょう。
水中運動は体重過多の人にとって関節保護の運動形態であり、ダイエット法として非常に良く適合しています。そうした適した運動によって弱点や故障箇所を克服する。減量はしばしば組織の弛緩をもたらしますが、水によるマッサージ効果は組織を緊張させ、定期的なトレーニングによって、関節に負担をかけずに適した運動による体形の形成と組織の引き締めにより、減量を成し遂げることが出来るのです。これが体重過多の人に水中運動が推奨される理由といえます。


骨粗鬆(しょう)症 

骨粗鬆症には水中運動が非常に適しているといわれています。
人間の最大骨量には30~40歳で達し、その後、骨量は継続的に失われていくとされています。骨の外面的構造が変形していなくとも、70歳では30歳時の骨量の2/3でしかありません。骨粗鬆症の明らかな経過は判明せず、年齢が進むにつれて一部は骨折の危険性が大きい骨密度まで減少します。
その3つの主な原因として
〇性ホルモンの欠乏(エストロゲン)
〇不適切な栄養摂取
〇運動不足
が挙げられます。
筋力トレーニングは、骨の合成と維持を促進しますが、水中運動は骨粗鬆症の防止に対して正に抜群に適しています。骨粗鬆症では多くの骨折は不注意による転倒の際に発生しますが、定期的なトレーニングは全般的な反射能力の向上と、それによる転倒の危険性を減少させます。
水中での運動は体育館での運動よりケガの危険が少ないため、心理的に転倒の恐怖を感じにくくします。運動者は水中では転倒を含めたすべての運動にブレーキがかけられることを学習することで自信を強く持つようになり、不安を感じることなく新たな運動に挑戦しようとする意欲が湧いてくるのです。水中運動では危険性が少なく筋力トレーニングができ、ケガの予防となる体性感覚とバランス感覚の改善をもたら効果が期待できます。
高齢者のところで紹介したような様々な効果も安全に挙げることができるため、適した運動法といえます。 


糖尿病 

糖尿病の治療の時に水中運動が他の持久運動より有利な点があります。
ご存じの通り糖尿病では80%以上の方がⅡ型で、薬と体重管理(減量)、食餌管理、運動が治療の基本になっています。運動では筋肉活動によってグルコースがエネルギー源として燃焼されます。これはインスリンを必要としない自然のグルコース分解ともいえ、グルコースの減少を促進するので、糖尿病の治療にとって運動は必要不可欠なものなのです。またⅡ型糖尿病には動脈硬化のリスクがあり、しばしば末梢部位の血流障害によりその部位に重篤なダメージをもたらすことがあります。持久的運動は末梢の毛細血管の血流を増加させるため、血行の改善となり心臓循環系に好影響を与えます。
ただ、末梢性の多発性神経障害のある方がスポーツをする時、足に合わない靴を履いていると末梢部にダメージを与え併発症を引き起こす可能性もあり、そのリスクを回避する意味で素足で行う水中運動は有利といえるのです。
水中運動をはじめ運動は精神的・社会心理的な効用が期待されます。
〇糖尿病克服への積極性が高まる
〇他のスポーツ活動への動機づけの強化
〇自己肯定の強化
〇健康状態全般の改善
などです。


静脈性障害 

水中の水圧は静脈系とリンパ系による「むくみ」などのうっ滞を均等に圧迫することで、むくみの解消に効果があります。静脈は水圧によって外側から受動的に圧縮され、適時の運動による筋肉の膨張よってさらに増強されます。静脈は弁の機能を取り戻し、血液を心臓へ戻すことを容易にします。これは体の表面に近い場所にある静脈だけでなく、深いところを通っている静脈にも作用します(筋ポンプの強化)。
静脈は新陳代謝時の老廃物を輸送しますが、一部の大きな老廃物はリンパ管を通して排出されます。この2つのシステムで老廃物の輸送をしているのです。
ご存じの通り、心臓は酸素と栄養分を組織へ送り出すポンプ作用をしますが、組織からの還流を助ける作用はありません。骨格の筋肉の収縮(太くなったり、細くなったり)が、周囲の組織・静脈・リンパ管を圧迫したり緩めたりします。静脈やリンパ管は弁を持っているため、圧迫によって血液やリンパ液を心臓方向へ送り出します。リンパ管は筋構造を持っていますが、筋構造を持たない静脈には筋肉の収縮はポンプ活動の活動源となっているのです。
水中では深度が増すと水圧は上昇し、下肢の深部に対してテーピングのような圧力効果をもたらします。補足的には温水でない場合水に、静脈への圧迫効果は強化されます。
水の冷刺激だけでも血管に対するトレーニング効果がありますが、温水の場合には下肢に冷水をかけることを続けて行うことがあります。その場合でも水温は32℃以上にしないようにし、その後脚を挙上して安静にします。
アクアジギングは運動・圧迫・静脈緊張性冷刺激の相乗効果が期待できます。