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HOME | 治療の情報 | 12) 水中運動2 反応と症状別

皮膚刺激反応 

水中運動・アクアビクスを行う利点には、運動器の筋肉増強や関節の負担軽減などの他、水温による皮膚刺激が挙げられます。皮膚には環境の変化を感知するセンサー(受容器)があり、体全体に分布しています。様々な環境の変化を刺激としてセンサーが感知し、神経系を通じて脳に変化を伝えます。脳はこの変化に対応するよう体の各器官に指令を出し、体の恒常性を維持(一定の状態に)しようとします。水中運動とセンサーに関連していえば、皮膚が水に濡れ表皮の上層部分がふやけると熱の伝導率は上昇するとされています。つまり温度変化が脳に伝わりやすくなるということです。快適な服を身に着けたり、空調設備により寒暖の差の少ない文化的な快適な生活を営んでいることで刺激されることが少なくなることや、化学的有害物質の影響を受けたりすることで、体の代謝が活性化されにくい状況も多くなっています。皮膚が受ける状況変化や温度刺激に対する体の反応は、新たな刺激により改善され、そのことで広い意味での長期的な体の恒常性の維持・改善に役立つものと見ることが出来ます。つまり、水中運動をする場合に体が繰り返し受ける水の温度刺激は、温度調節機能の訓練の一つとも言うことが出来るのです。


皮膚の役割

皮膚にある神経系のセンサーは水温に対する重要な受容器であり、その意味で皮膚は温度調節において大きな役割を担っています。それ以外にも皮膚は免疫作用・栄養の貯蔵や血液配分の調節を決定するための重要な器官でもあり、人体と外界との間の刺激の仲介役とも言えます。皮膚が濡れ、表皮最上層部がふやけると熱伝導率は上がります。食餌からの栄養物質の欠乏、不適切な被服による温度刺激の低下、有害化学物質の作用などといった文化的影響によっても、皮膚の透過性や代謝の障害が起こる可能性があります。水中では表皮層のPH値が変化し、常に皮膚切片が剥離し、痒みの刺激を伴って皮膚の亀裂をもたらし易くまります。
そのため皮膚が敏感な場合は水中での滞在時間は短縮され、適切なスキンケアに重点を置くべきといえます。
塩素処理水は目・耳・口の粘膜領域に発赤や掻痒刺激を誘発することがある上、水表面部での塩素濃度はしばしば水中部のものよりも高いので、皮膚が敏感な人は首まで水につからずに水位の低いプールで行うことが望ましいといえます。 


他の器官の反応 

腎臓の最も重要な働きは液性部分、電解質、酸-塩基平衡の調整です。水中で身体の血液循環が増加することで腎臓にもより多くの血液が流れ、それにより尿意をもたらす腎臓の活動(濾過)が活発になります。この濾過の増大によって、カリウム・ナトリウム・マグネシウムなど様々なミネラルや電解質が多く分離されます。ミネラルはスムーズな筋肉収縮に使われ、心臓の活動にとっても重要なため、これらミネラルのより多くの分離は心臓疾患の患者に対する危険もはらんでいます。更に心臓疾患の患者にとって危険なことには、血液の水分喪失により血栓症のリスクが高まることです。水中運動を行う前に多めの水分を摂取することで、このような危険性をある程度低下させることが可能です。
心筋梗塞後など心臓の循環系疾を有する場合、水圧や高すぎる水温の場合に問題が生ずることがあります。
体温低下は下腹部に刺激を生じさせることがあります。この部分が敏感な人は運動時間を短くし、事前に温かいシャワーで温めるか、防寒こと性の水着やスーツの着用という対策をとります。
食事の直後では、循環血液は消化器官に偏ります。この時間帯に身体活動によって筋肉運動が増加すると多くの血液が身体に必要とされるので、脳への血液供給不足とそのための虚脱になる可能性があり、水中ではこの状態は特に危険です。 


症状・状態別の注意 

水中運動はどのような人にも対応する運動形態といえ、様々なトラブルを抱えた方に対して特に有利です。そのメカニズムと注意するべき理由を症状別に取り上げます。


脊椎にトラブルのある場合

水の浮力は脊椎と椎間板への負荷を特に軽減する作用があります。椎間板にかかる重量を軽くすることで、陸上での場合より姿勢を保持する際の筋肉支持作業は軽減され、筋肉は力を抜くことができます。椎間板の障害は誤った負荷・過負荷など過度の機械的要求によるものと、片側への負荷・運動不足といった椎間板の局所的な代謝障害によって多く発生します。すると、椎間板は脊椎の間にあってのクッション機能を果たせなくなります。
椎間板はその中心に髄核を持つ線維状の軟骨で、圧力を和らげる作用があります。体の他の組織と異なり、椎間板は血管を持たないため血液循環から栄養を受けられず、栄養補給はもっぱら髄液から拡散という作用を通じて行われます。椎間板は日中には水分が失われるため晩には人間は背が縮み、夜間は水分を充分に吸収して回復するとされています。
最大限の栄養補給をするためには椎間板・脊椎の運動を行うことが大切です。規則的で変化する運動は、椎間板と脊髄の間での新陳代謝と拡散作用を保証します。
椎間板に重大な障害のある人には、仰向けまたは大きな浮力が得られる深い水位での運動が特に推奨され、そうすることで椎間板の緊張緩和が出来ます。運動によってこの変化する負荷は理想的になり、脊柱を支持している筋肉の強化が行われます。