治療のヒント6) 治療全般
6-1 お灸の効果
お灸のイメージは良いとは言えませんが、筋肉のトラブルなどではとても効果が上がることを経験します。お灸の「灸(きゅう)」は「急」や「久」に通じていて、急性の疾患にも慢性の疾患にも対応できます。腰痛の場合でもハリをした後でお灸をすると治療効果が長持ちし、ハリをした後に違和感が残った場合ではそれを解消します。ハリもお灸もツボの上に刺激を加える事は一緒ですが、効果に違いもあります。お灸にはいろいろなやり方があって、ハリの上にモグサを付けて温める灸頭針や、ショウガなどの上にモグサを乗せて使用する方法もあります。米粒やゴマ粒、その半分ほどの大きさを直接肌に乗せて使用する方法は、痛みがある場合に大きな効果があります。イメージの悪いお灸ですが試してみるとモグサの熱の治療効果を実感でき、新たな認識が加わると思います。お灸の効果の具体例を挙げましょう。70代の男性ですが、腰痛で来院されました。慢性的なものなのでマッサージを希望されたのですが、治療当日の朝に起き上がる時に痛みを感じて、なかなか抜けないとの事でした。特に痛む部位はお尻の骨の上で、仙骨と腸骨という骨の境目付近のいわゆる仙腸関節です。マッサージをして筋肉全体を緩めると痛みは良くなりましたが、仙腸関節部分を圧すとまだ痛みがあります。そこでその部位に米粒半分の大きさのお灸をその個所と仙骨と背骨の付け根部分、お尻の真ん中3箇所に5回ずつ行いました。終わった後立ち上がる時には痛みが軽くなっていました。さらに次の日の朝に起き上がる時にも痛みも無く、久しぶりに快適だったと後日話されていました。3日ほどはその状態が継続したそうです。この様にお灸には即効性と効果を維持する力が有ります。
6-2 ツボの見つけ方
漢方で使われるツボの数は書かれた本によって異なります。世界保健機関(WHO)で認定されているものは一応の基準ではありますが、その他によく効くツボとして有名なツボがあったり、独自に使うツボなどがたくさんあります。本などで紹介されているツボを使う場合、正確にそのツボを探すことが難しい場合があります。ツボを探す時には触ってみて他の部分と異なる感触、痛みを感じるといった違和感のある部位を中心に探すことが大切になります。皮膚の上にヘコミがあったり、逆に硬く盛り上がりがあったり、筋張っていたりと、周囲の部分と違う感触を感じる場合です。その他、圧してツンとした痛みを感じたり、逆に感覚が鈍かったりすることもあります。反応に変化が見られるその様な場所がツボと考えられます。ツボは体調を反映する反応点であり、治療する点でもあります。過敏に感じる場合には刺激してその感覚が和らぐまで、鈍い場合には感覚が出てくるまで刺激する事も一つの方法です。
6-3 コリの感触
ツボと同じくの皮膚の上に触れる変化にコリがあります。
コリは血流が悪くなった部分の筋肉や組織が硬くなった所といえます。コリコリとして盛り上がっていたり、腱やスジがヒモ状に緊張しているところです。英語では「Stiffness」、ドイツ語では「Verspannung」と言い、緊張しているという訳語になります。日本語では硬く固まっていて、ほぐれにくいというイメージが加わります。体の反応が出ている部分であり、治療する点でもあります。
ツボと同様にコリを触った感じには「痛い」と感じる時と「何も感じない」時があります。反応が出ている部分ですから「痛い」と感じる場合が普通で、その部位だけに痛みを感じる場合と、その原因と関係がありそうな部位にも痛みを感じる場合もあります。例えば首のコリを圧すと目の奥やコメカミにツンと響きます。それを圧迫し続けると関連した痛みが軽くなります。
逆に何も感じない硬い部位は、コリが強すぎて感覚が鈍くなっていると考えられます。コリの緊張が取れてくると感覚が戻って来て、痛みや関連する部位の痛みを感じるようになります。この様なコリの状態は痛みを感じやすいコリよりも厳しい状態と考えられ、ゆっくりと慎重に治療を加える必要があります。
コリの緊張を緩ませる場合にも圧す方向や強さといった圧迫の方法などにコツがあり、単純にその場所を圧すだけでは解決しません。また強すぎる圧は腱やスジを痛めることにもなり、モミ返しも起こるので要注意です。
6-4 コリに気づいていますか?
今までマッサージなどの治療にかかったことの無い方がいらっしゃいます。
友人や同僚に肩や背中を触られて「硬い」といわれたり、美容院でこっているといわれて来院される方が時々いらっしゃいます。実際に触れてみると、確かに肩や背中の緊張が強く、硬く張っています。その方は以前に一度だけ腰の痛みを感じたことはあったがスグにそれも無くなり、普段は動きづらさや背中の緊張を感じたことはなかったとおっしゃいます。
コリの感じ方には個人差があり、私たちからするとそれ程こっていないのですが、ご本人は非常につらく感じていたり、この場合の様にコリは強いのだけれども、ご本人は全く苦にならない事があります。ある意味ではつらさを感じない分だけ幸せと言えますが、体の変化に気付かないで放っておくと、ある日突然体が悲鳴をあげてしまうことがあります。
この方の場合でも、施術後は全身の緊張が取れて軽くなり、目はハッキリと見えるようになったとおっしゃっていました。コリに敏感な方もおつらいですが、状態が悪くなリ切るまで放っておかれ回復も遅くなるためコリに気付かない場合も困った状態ともいえるのです。
ただ、マッサージやハリの刺激になれていない方は「モミ返し」などの副作用が出やすいので、その強さについては慎重に選ぶ必要があります。「コリ」が強いからといってグイグイ圧すような事の無いように配慮できる施術者を選ぶことも大切といえます。
6-5 穴の開いたボート
日々の生活では、疲労・仕事・睡眠・気候といった環境・体調・生活の変化などが体に影響を与えています。例えて言えば人が穴の開いたボートに乗っていて、体に入って来るこれらの悪い影響に例えられる水がその穴から入ってきている状態といえます。人はそのボートが沈まないように入ってきた水をかき出しているようなものです。入って来る水の量よりかき出す水の量が多ければ体は健康を保っているといえます。逆にかき出す水の量が少なければ、ボートの中に水が溜まって来ることになります。体調不良の状態です。入って来る量が多少増えても、水をかき出す能力に余裕があればフルパワーにして自然に健康な状態へと戻すことが可能になります。このかき出す力が足りないとボート一杯に水が溜まり、病気となります。
全ての治療はこの能力を目いっぱいに引き出すキッカケを作ってあげることともいえます。鍼灸やマッサージも体の持っている自然治癒力に刺激を与えて、その能力を目覚めさせて活性化させてあげるものです。特に、病気にまではなっていないが、体調がすぐれない場合には治癒力向上のキッカケになります。水をかき出す能力は人によって違うので、自己努力で改善出来てしまう方もいますが、その力が弱い人はこうしたキッカケが必要になるのです。
また、ボートに入って来る水の量は穴の大きさによって変化しますが、体の状態が悪い、厳しい環境にいるなどはこの穴が大きく開いているといえます。そのためボートに水がたまりやすくなっている状態です。この穴を少しでも小さくすること、つまり病気の原因を取り除く事(治療)が必要です。
常に水をかき出しながら、万一の時には水の入り込む穴を小さくし、かき出す力を増強して良いコンディションのボートに乗り続けることが健康を維持しているといえるのです