上肢の浮腫/治療例
〇初診時の所見(患者の申告)
右乳房全摘
放射線照射(1か月)*(25回の1クールと思慮)
リンパ節10数個切除
〇浮腫の状況
上腕(+)、前腕(++)、肘周囲(++)、甲(+++)、指(+)
〇患者さんの訴え
手の甲と肘周囲のむくみが気になる。肩甲骨付け根に「だるさ」がある。
評価と経過
徒手リンパ排液法を行う。
4回を1か月以内に行う。4回目には甲の浮腫も軽減。術後の反応も良好。
その後4か月、来院なかったが、仕事内容が変化しハードワークになったためか、腕全体・甲にむくみの増加がみられ来院。スリーブ・グローブの着用を開始。2か月間に4回来院。状態に若干の増減はあるが、悪化してはいない。
2年後、再発のため抗がん剤治療を開始したところ、しばらくしてむくみが増強する。
再発後では肘周囲の前後の腕に緊張性の浮腫があり、周径の増加がみられる。施術後は浮腫部分が柔らかくなったことが認められる。
その後は、良い状態とむくみが増加することを繰り返すが、時折浮腫の状態が良くない時に来院される。
*リンパ浮腫のむくみは仕事量や疲労度に非常に左右されます。自分自身が疲労を感じていなくても、体が疲労している場合にはむくみが増加することは良くあります。その場合は休むことが必要になってきます。むくみは疲労のバロメーターです。
*状態が悪い場合にだけ治療やケアをしがちですが、状態の良い時にもケアを欠かさず、一定の期間で定期的に治療をすることは、症状の悪化を抑えます。症状が悪化した場合には集中的に治療することになり、お医者さんの処置が必要となる場合もあり、入院もあり得ます。長期にわたるケアを必要とする治療なので、患者さんにとっては精神的にも肉体的にも大変なことですが、根気よく続けていくことが大切です。
〇初診時の所見(患者の申告)
左乳房全摘
放射線照射(30回)
リンパ節廓清あり
〇浮腫発生状況
手術後数か月して放射線治療を行い、その後4か月して浮腫発生。
親の看護で忙しかった
現在もホルモン療法継続中
〇浮腫の状況
上腕(++)、前腕(+++)硬、肘周囲(++)、甲(+)、指(+)
〇患者さんの訴え
全体的な重だるさはあるが、痛みはない。
評価と経過
2か月で5回リンパ排液法。3回目から圧迫スリーブ着用。 前腕部肘付近は硬くサイズも太い。スリーブ着用後は浮腫はサイズダウンし、手首は特に良い状態になる。その後は月に1回程の頻度で10回来院。看護などで多忙の時は浮腫は硬く、サイズが大きくなり、施術後は柔らかく細くなる。施術に対する反応は良いが、集中的に治療する時間がない。上腕は減少傾向であるが、肘周囲はその時々で差が激しい。
〇サイズの増減(最大値と最小値)(計測点に誤差あり)
上腕31.4-27.8、肘31.9-28.8、手首19.6-16.8
*浮腫のある方は集中的に治療する(治療頻度を多くする)期間が必要です。その程度は浮腫の状態によりますが、浮腫を軽減させたら、良い状態を維持していくことが目標になります。浮腫を少なくしておかずに、状態が良くない時にだけ治療しても浮腫の軽減までは進みにくいものです。集中した治療によって状態をさらに一歩改善させることが望ましいと思われます。状態が改善されれば、蜂窩織炎などのリスクが減っていくことにもつながります。
*集中的に治療する時期には圧迫も必要です。最善の圧迫は弾性包帯を使った方法ですが、手間がかかるのが難点です。圧迫スリーブはそれよりは手軽ですが、その時々の浮腫のサイズ変化に対応できないのが難点です。スリーブは基本的には維持していく時期に使用するものです。しかし、スリーブ着用後に明らかなサイズダウンが見られることからも有効です。夏の暑い時期は汗などの為に皮膚が傷つきやすくなるので注意が必要ですし、時には圧迫をできない時期も出てきます。出来る時になるべく多くの時間圧迫するように心掛けることが大切です。
〇初診時の所見(患者の申告)
左乳房全摘
放射線照射(35回)
リンパ節廓清あり
〇浮腫発生状況
手術後14年間浮腫は無かった。
発生の誘因は覚えていない。発症後18年経過。
〇浮腫の状況
上腕(+)、前腕(+++)硬、肘周囲(++)、甲(ー)、指(ー)
〇患者さんの訴え
痛みはない。重く感じる。
評価と経過
4か月間週に1回リンパ排液法。その後2週に1回にし、半年後月に1回にする。2年経過の後は浮腫が一時的に増加したときに来院し、状態を維持している。圧迫スリーブ着用。 前腕部と肘周囲に硬い浮腫がある。手首にも浮腫が認められる。状態が悪い時には特に重さを感じる。皮膚の状態は良好。蜂窩織炎は初来院前に一度起こしたが、その後起こしていない。
手首の浮腫は最初の治療後に軽減し、その後時々増加するが、治療を受けスリーブを着用していると良い状態となる。前腕の硬さは仕事の量に比例することが多く、厳しい場合には3回程度週に1回来院して治療。硬い浮腫が柔らかくなり、サイズダウンする。
〇サイズの増減(計測点に誤差あり)
初診時:上腕29.8、肘上28・5、肘下26.8、前腕28.9、手首17.6
4か月後:上腕29.4、肘上27.6、肘下25.4、前腕27.9、手首15.1
直近の状態:上腕27.9-25.8、肘上27.0-25.0、肘下25.7-23.1、手首16.0-14.6
*これは10年以上の長期間来院されているケースです。浮腫発生が術後14年とかなり遅く発生し、発症後も18年間治療をしていなかった稀なケースです。以前は浮腫が発症しても治療自体が行われてはいなかったので、そのままにされることが多かったのも事実です。 長期間浮腫がみられますが、皮膚も良好な状態を維持しています。来院後は炎症を起こしていませんが、リンパドレナージュを継続して行っている場合には、全く起こさないわけではありませんが炎症を起こす割合が減少するように思われます。炎症を起こしやすい方は浮腫が増加する傾向にあり、皮膚の状態も乾燥肌のようになりがちです。炎症はインフルエンザのように急激に起こり、39度の熱が出ることも稀ではありません。極端な場合には数か月に1回以上起きる場合もあります。それを防ぐためにもドレナージュは重要になります。
*仕事、旅行、孫の世話など、疲労した後に「むくみ」は一時的に増加します。この場合は治療をすると良い状態に戻すことが可能となっているケースです。リンパ浮腫は完全に治癒するとは言えない病気なので、いかに良い状態を維持していくか、管理していくかが重要であり、そういった意味ではケアのモデルケースといえます。