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13)下肢の浮腫治療例

下肢のリンパ浮腫 


〇初診時の所見(患者の申告)
 左下肢全体のむくみ
 手術歴なし、病気や異常はない
 (一次性リンパ浮腫と診断)
〇浮腫の状況 
大腿(+)、膝周囲(+)、膝から下(++)、甲(+)、趾(-)
健康な右下肢との差は0.5~1cm以内で、それほど大きくない。
〇浮腫発生状況
特に原因は無いが、3~4か月前からむくむ。30才台半ば。
〇患者さんの訴え
夕方と夜に特にむくむ。痛くはないが重だるい。圧すとへこむので気になる。
 
評価と経過
徒手リンパ排液法を行った後、弾性包帯を膝から下、足まで巻く。
15分程度、歩行運動・関節を動かす運動・日常動作を行う。
直後の2カ所計測すると1cm程度減少。特に甲が減少。
セルフテーピング(弾性包帯)を希望されたので、帰宅して入浴後の包帯と、最低で1時間後以降の就寝を指示。
いつも包帯が出来るわけではないが、太めの時に包帯をすると翌朝調子が良い。旅行した時も良い状態で行けたが、帰ってから少しむくみ気味。
1か月後でもセルフテーピング(弾性包帯)をして維持出来ている。
普段でも圧迫ストッキングの着用し、セルフケアを継続していくことをお勧めしました。
このケースは左右差が小さく、発症後の経過時間も少ないので、皮下組織などの増殖は少ないので継続的なケアが効果を上げやすい例です。
 
*一次性リンパ浮腫ははっきりした原因がない浮腫です。異形成といって、指紋のように個人によって元々違っているリンパ管のネットワーク形成が原因です。特に異常とは言えないので一次性のリンパ浮腫との診断されるまでに時間がかかってしまうことが多くあります。検査しても、腎臓の機能や血液の数値に異常は見つからないので、何カ所かの病院に行って1年半かかってようやく診断された例もあります。20歳前後に発症することも稀ではありません。むくみは健康な方でも起きる症状ですので、翌朝や2・3日でむくみが消える場合はそれほど深刻に考える必要はありませんが、1週間以上むくんだ状態が続く場合はお医者さんに相談されることをお勧めします。その場合はリンパ管や静脈を取り扱っているお医者さんが専門医ということになります。
*浮腫はホルモンが関係していることも多く、そのため女性に多い疾患といえます。また、脂肪も関係してくるので注意が必要です。脂肪が関係している場合は、体重のコントロール(いわゆるダイエット)や、通常のリンパドレナージュよりも強めの西洋式マッサージ法も必要になります。ゴツゴツした皮下組織(いわゆるセルライト状態)を持った状態では、スポンジを組み込んだ弾性包帯法も有効です。組織が増殖・安定化しないうちの、ケアの早期開始が望ましいといえます。



〇初診時の所見(患者の申告)
両下肢のむくみ、顔・上肢もむくむ
手術歴なし、病院では異常はない
利尿剤でも改善しない
〇浮腫の状況
顔面(±)、上腕(±)、右側・大腿(++)、膝周囲(+)、足首(+)
左側・大腿(++)、膝周囲(+)、膝周囲(+)、足首(+)
左右の大腿部での差は1cm前後でにそれほど大きくない。
腓腹部では2㎝程度左が太い部位がある。下腿部は左の方が太め。
顔面と上肢のむくみは触診で多少認められるか?といった程度。計測せず。
〇浮腫発生状況
特に原因は無いが、ここ数年全身的なむくみを感じ病院に行くが改善しない。
年齢50才前後。
〇患者さんの訴え
朝からむくんでいるが、夕方と夜に特にむくむ。常に不快感がある。
 
評価と経過
顔面部のリンパドレナージュを行い、その後頭部マッサージ。
両下肢のドレナージュを鼡径リンパ節目標に行う。呼吸法を伴った腹部深部ドレナージュ。
2回目の治療は初回時と同様。
3回目は顔面は同様に行い、両上肢のドレナージュを腋窩目標に行う。両下肢は行わず。
 
大腿部では右-1.5、-1.8㎝、左-0.8、-1.3㎝と減少し、
膝下部では右-1.0、+0.3㎝、左-1.2、+0.2㎝と減少傾向にあり、
足首部では右-0.9、+0.5㎝、左-0.4、+0.4㎝と変化少ない。
顔面部は1回目はすっきりしたが、2回目はそれほどではなく3回目は長めにドレナージュしました。
上肢は軽めのドレナージュを行いました。
 
*このような原因のはっきりしない浮腫に対しては、一般的な方法を個別に行っていきます。リンパ浮腫はリンパの輸送途中に問題があることが多いため、どちらかと言えば部分的にむくんでいます。そのためむくんだ部分に関係の深いリンパ節や集合している部分をマッサージするものです。すでに書いている通り浮腫はホルモンが関係していることも多く、疲労や栄養などとも関係しています。むくみを引き起こしている原因は複雑に絡み合っているため対処療法を行うしかありません。病院での検査や医師の診断で内科的な疾患でないことがはっきりしている場合、対処療法での軽快感や浮腫の軽減が目標となります。リンパ管の活動を活性化させる意味で行うマッサージです。



〇初診時の所見(患者50才台)
左下肢全体のむくみ
子宮体がん、内視鏡による子宮・卵巣全摘、リンパ廓清あり
(二次性リンパ浮腫と診断) 
〇浮腫の状況
 大腿(++)、膝周囲(++)、膝から下(+++)、甲(+)、趾(-)
 健康な右下肢との差は5㎝以上あり、全体が緊張性の硬い浮腫。臀部にも少しあり。
 〇浮腫発生状況
 手術は6年前だったが、特にむくみは無かった。3か月前に海外出張、その後仕事が忙しかった。来院1か月前から浮腫が発生し、最初は一晩寝ると減少したが現在はずっとむくんだまま。
〇患者さんの訴え 
夕方と夜は特に硬く、痛みを感じる。圧迫ストッキングも夕方にはきつくなる。
 
評価と経過 
当初は徒手リンパ排液法のみを行う。大腿部は術後に柔らかさが出て反応は良いが、下腿部や踝は緊張が強く、柔らかさが出にくい。圧迫ストッキングでは大腿部の緊張は減少しない。3回目から弾性包帯を大腿部から足先まで全体に巻く。本人もセルフで圧迫包帯を就寝1時間前に実施する。
その後の治療では緊張性の緩和が出現し、数回の治療後は大腿部・下腿部ともにやわらかさが継続している。ゴルフの後には一時的な浮腫の増加が見られるが、同様の治療でゴルフを行う以前の状態に戻る。
 
1か月で大腿部では-1.4㎝、膝下部では-1.3㎝、足首部では右-1.4㎝の減少をみる。何よりも「緊張がゆるみ、仕事をしていてもつらくなることが少なくなった。」と感じられてきているようです。
 
*二次性リンパ浮腫はリンパ廓清手術などによって起こる浮腫です。リンパ浮腫の中で最も多くみられ、浮腫の程度も千差万別です。ドレナージュ治療だけで浮腫の減少を得られるケースもありますが、圧迫治療を併用しないと浮腫の軽減が図れない場合も多数あります。むしろ、浮腫が出てしまった場合には弾性包帯や弾性ストッキングによる圧迫治療は欠かせないと考えられます。
*浮腫の状態も押してもへこみにくい硬い緊張性のものから、押すと窪みを残す柔らかいもの、治療後は柔らかくなるが1日程度しか良い状態を維持できないなど様々です。圧迫療法は浮腫の軽減時には弾性包帯を使用し、浮腫軽減がされた後にはその状態を維持するために圧迫ストッキングやスリーブを使用するのが正しい方法です。特に浮腫の状態が厳しければ、夜間に行う圧迫包帯は効果があります。無理は禁物ですが、チャレンジしてみる価値はあります。自分自身の浮腫の状態に合わせた治療が必要ですし、効果の出方も様々ですので、治療を続けて行く気持ちの維持も大切になってきます。