治療期間
Q) どのくらい治療すれば治りますか?
A) リンパ浮腫は完全の良くなることは難しい病気です。むくみが良くなっても、疲れや体調不良によって再び増加してしまうことがあります。状態が朝には良くても、夜になると膨らんでしまうということも繰り返します。ですから、決まった期間、治療したから終了というわけにはいかないのです。良い状態にもって行き、それを維持していくことがリンパ浮腫の治療法だと考えてください。
圧迫だけ
Q) 圧迫ストッキングだけでも大丈夫ですか?
A)リンパ浮腫が軽度の場合には、圧迫ストッキングを着用しているだけでも浮腫が軽減されたり、落ち着いていることもあります。しかし、着用しているだけでは充分でないことも多く見受けられます。浮腫が軽減しない場合や、逆に増加してしまう場合にはマッサージを含めた総合的な治療をする必要があります。適切なサイズのストッキングを着用しない場合には、皮膚が傷ついたり、苦しく感じることもあります。その時々で変化する浮腫の状態に合わせるためには、常に浮腫を観察することも大切です。
マッサージだけ
Q)セルフマッサージだけで充分ですか?
A)セルフマッサージは浮腫の管理には大切ですが限界もあります。むくみが出ていない方や少ない方の場合には、常に状態を確認し皮膚の状況を感じるために必要です。しかし、増えてしまった浮腫を減少させようという場合にはそれだけでは足りないと考えられます。特にさするようなマッサージは皮膚表面を摩擦し部分的な充血を起こすため、効果的ではないと思われます。専門的なやり方を一度は体験することも必要です。
むくみの場所
Q) 足の裏にむくみがあるのですが?
A) リンパ浮腫では「むくみ」の発生する場所に個人差・個体差があります。
リンパ液は心臓へ運ばれて行くという求心性の流れが基本です。そのためリンパ節・管がダメージを受けた場合は、それより末梢部にむくみが出るという理屈になります。腋の下やソケイ部の手術をされた方で言えば腕や脚・足にむくみが発生します。理屈からすれば、脚では大腿部・膝下・足といった順序でむくみが出そうな気がします。乳がんの方で言えば二の腕・前腕・手の甲・指といった順番にむくみが出る予想が立てられますが、実際にはその通りにはなりません。
大腿部がむくんでいて膝下にはむくみが無い場合もありますが、「大腿部はむくんでいないがふくらはぎと足がむくんでいる」、「足の甲だけがむくんでいる」、「全体がむくんでいたが、足の裏のむくみだけがなかなか引かない」といったケースも少なくありません。
腕で言えば、二の腕だけの方もいらっしゃれば、手の甲だけにむくみがあるケースもあります。
これはご本人に備わっているリンパ管ネットワークの違いによって出現したものと考えられます。ですからリンパ浮腫の治療の際にはむくみの多い部位に時間をかけて施術することになりますし、ご自身でケアする場合も特徴に合わせて重点的にマッサージする必要があります。
痛み
Q) 痛みやシビレがありますが?
A) 基本的にリンパ浮腫では痛みは出ないと定義されています。つまり、痛みやシビレはむくみ以外の原因で起きていると考えられています。抗がん剤の副作用などでこれらの症状が出てしまった場合には、症状の改善は難しいとも言えます。
また、急にむくみが増加したり、炎症が起きたりすると、皮膚がパンパンになってしまって引きつれるような痛みや違和感を感じることもあるようです。また、手術の際に受けたダメージが残り、むくんでいなくともその部分に変な感じを抱いたり、重だるさを感じる方もいらっしゃいます。時折、リンパドレナージュという柔らかな軽刺激のマッサージで、痛みや違和感が軽減される方もいらっしゃるため、リンパドレナージュを試してみることも良いかもしれません。
しばらく振りのむくみ
Q) むくみがしばらく無かったが再び出てきた
A)リンパ浮腫は手術直後でなくても遅れて発生することも多くあります。手術後にいったん引いたむくみですが、以前の忙しい日常生活に戻り、疲れなどで体のリンパ液量が増えてしまうとむくみが再び出ることもあります。
また、加齢とともにリンパ管の活動が衰えて、リンパ液の滞りが発生したとも考えられます。30年経過してリンパ浮腫を発症した方もいらっしゃいます。
再び出てきたむくみが一時的なこともありますが、リンパの切除をしたなどのリスクをお持ちの方は要注意です。疲労回復に努め、休憩を多くとるなど体調管理が大切になってきます。油断は禁物といえます。
皮膚の状態
Q) 皮膚がガサガサになっています
むくみが長く続くと皮膚に変化が出てくることがあります。いわゆる乾燥肌のようにカサカサしてきたり、皮膚が厚くなったり、黒ずんできたりすることもあります。皮膚が粉を吹いたようになり、フケのようにはがれ落ちることもあります。これらは皮膚の下から外側に向かって膨張しようとする刺激が常に加わっていることが関係しています。
皮膚が傷つくと感染症にかかる危険性が高まるため、良い状態を維持することが必要になります。肌に合った保湿クリームなどで皮膚トラブルを予防することが大切になります。
「2)浮腫と治療上の注意」のページ2‐6「体の組織と変化」もご覧ください。
リンパマッサージ
Q) リンパマッサージとは?
A) むくみはリンパ管の外に水分が滞っている状態です。リンパマッサージ(ドレナージュ)は体の表面に近い皮下組織にあるリンパ管のネットワークに作用させ、リンパ管の外にあるむくみの液体をリンパ管により多く取り込ませることが目的です。リンパ管ネットワークにダメージを受けている方だけでなく、健康だがむくみが出ている場合にも有効な方法です。リンパ管にダメージを受けている方はダメージを受けている場所を避けて、健康に働いているリンパ節へ誘導することが必要です。具体的な方法はリンパドレナージュの基本をお読みください。
さする方法
Q) さする方法でセルフマッサージしています
A) さする方法でセルフマッサージをしている方が多くいらっしゃいます。流す方向へさすり上げてやるように指導を受けることも多くあり、イメージし易く、やりやすい方法でもあります。しかし、この方法では摩擦によって部分的な充血が起き、皮膚表面が赤くなってくしまいます。充血は血行が良くなった証明ではありますが、血液循環量の10%発生するリンパ液(組織液)の量を増やす結果にもなります。リンパドレナージュは、この充血を防ぎながらマッサージをすることがコツになります。皮膚の上を滑らさず、皮膚と皮下組織を「ずらす」ように動かすことが重要です。イメージがわきにくい場合は専門的な治療を行っている施術者に1度でもかかることをお勧めします。
誘導する
Q)誘導するとはどういうこと?
A) リンパ浮腫の大部分は、手術などでリンパ管やリンパ節にダメージを受けてむくみが出ている状態です。体には回復しようとする能力がありますが、むくみが長期間続くということは傷ついたリンパ管などの修復が足りないという事を証明しています。運ぶ力の不足した場所へリンパ液を輸送していっても当然運ぶことは困難ですので、正常な機能を持っているなるべく近い場所へ誘導してあげることが必要になるわけです。
また、誘導していく途中に障害(この場合は傷や火傷)がある場合はそこを避け、その周囲を迂回して進むことになります。いずれにしても腕の場合と脚の場合、顔の場合などケースバイケースなので、状況に合わせた誘導目標とルートを設定することが大切です。
服の上から
Q)服の上からさすっていますが?
A) リンパドレナージュはリンパ管を引き延ばして緊張を加え、その後それを緩めてリンパ管自体が持っているポンプ作用を刺激し、ポンプの収縮回数を増やす方法です。それによってリンパ液を輸送する量を増やしてやることが出来ます。また、リンパ管の端(始まり)はチューリップの花の蕾ように閉じた状態ですが、花びらに糸がついていて、その糸のもう一方は周りの組織に結びついているようなイメージです。組織が引っ張られ糸が引っ張られると、花びらは口を開いた状態になり周囲にある組織液をリンパ管内へ取り込めることが出来ます。
この両方を行うためには皮膚と皮下組織の部分に緊張を加えることが必要になります。衣服の上からさすったとしても充分な緊張を加えることはできません。皮膚に直接接触して、皮膚と皮下組織をずらすことが大切です。皮膚に直接接触しても、その上をさするような方法も皮下組織まで緊張を加えることは難しいといえます。そのためマッサージは直接皮膚に接触することが望ましいのです。同様の理由でオイルやクリームを使用することはしないのです。
圧迫の強さ
Q) 圧は強いほうが良いのですか?
A) リンパ浮腫の圧迫治療は比較的強い圧で行います。しかし強すぎると色々な障害を引き起こします。血行を阻害し、クビレを作り、むくみを増強することがあります。摩擦で皮膚を傷つけることもあります。もちろん血圧も上昇しますし、苦しく感じて長時間着用し続けることもできなくなります。このような弊害を防止し、治療効果をもたらすためには適度な圧力の物が欠かせません。むくみはその時々に変化するため適したストッキングを選ぶことが大切で、無理に小さいサイズの物を着用すると良くない結果になるので注意が必要です。
保険適用での通常の圧迫力は「圧迫力クラスⅡ(23 - 32mmHg)・Ⅲ(34‐46mmHg)」を求められます。
夜間の使用
Q)夜、寝る時の着用は?
A)夜間の圧迫ストッキングの使用は、基本的には行いません。就寝中は動きも少なく圧迫感も強くなりがちです。時折、使い込んだ圧迫力の落ちたものを使用している方や、圧迫ストッキングではないが圧がかかるような素材のものを着用される方もいらっしゃいますが、例外といえます。
夜間に圧迫をしないとなかなか浮腫が減少しない場合の圧迫は弾性包帯で行います。弾性包帯を就寝時に行い、昼間はストッキングを着用することで浮腫の減少を促進します。この時、弾性包帯を巻いてから1時間程度は家事などの動きを行い、弾性包帯の巻きムラの調整をした後就寝することがポイントです。
一般的な圧迫ストッキング
Q) よく売っている圧迫ストッキングでもかまいませんか?
A) よく市販されている一般的なむくみ対策用のストッキングは、リンパ管が傷ついていない場合に有効です。リンパ浮腫治療用のストッキングはそれらに比べて圧力も高いものです。また、静脈瘤の治療などに使用されるストッキングとは圧のかかり方が違い、動くときに筋肉が太くなる場合に作用するものなので、リンパ浮腫の場合は専用のストッキングを着用する必要があります。
弾性包帯
Q) 弾性包帯を巻く時の注意は?
A) リンパ浮腫での弾性包帯は重要で効果的です。圧の具合も大切ですが、弾性包帯自体の素材も重要です。静脈瘤の圧迫と違って、ストレッチ(伸縮性)の少ない弾性包帯を使用することが大切です。
大まかに言えば静脈瘤では伸びてしまった管をテープを巻いて元の太さを維持して弁を機能させることを目的としますが、リンパ浮腫では筋肉が動く時にテープが抵抗となって、筋肉がリンパ管を圧迫する力を増加させるのが目的です。静脈の場合は力を抜いた時に適正な管の太さを維持することも必要ですが、静脈内の血流が増えて静脈の壁が膨らんでもそれに応じて太くなることも必要なのです。そのため、伸びの良い弾性包帯は巻きやすいのですがリンパ浮腫には最適とは言えません。
また、リンパ浮腫の弾性包帯は何重にも巻き重ねて固さを出し、筋肉膨張への抵抗とし機能させることが必要です。活動時には抵抗として働き、安静時には作用を減じる方法がこの場合の目的です。「圧の種類」や専門的研究の「圧迫療法」も参考にしてください。
温めるか
Q) お風呂などで温めた方が良いですか?
A) リンパ浮腫の部位を無理に温める必要はありません。血液循環量の10%がリンパ液になるといわれており、循環量が増えると当然リンパ液量(組織液量)が増えてしまい、運ぶ負担が増加します。ドイツではシャワーを薦められますが、日本人に入浴は欠かせません。ごく普通に入浴する分には問題ないと思います。熱い温泉などで長い時間温めたり、浮腫部分だけお湯につけたり温熱を加えることは避けるべきです。サウナもまた同様です。
ゴルフや旅行
Q)ゴルフはやらない方が良いですか?
A)ゴルフや旅行の後では浮腫が増えてしまうことは多いと思います。体力維持のためや精神衛生にとっては必要な物でありますが、疲労が出ることには違いありません。だからといってこれらを止めてしまうと、何のために治療しているのかといった疑問もわいて来ます。ですので、ご自身の体力や、その後のむくみ具合を考慮しながら行えば問題ないと思います。
更には、リンパマッサージなどの治療を受けるなど、充分なケアをすることでゴルフへ行く前や旅行前の状態に戻れば良いと考えます。
注意事項
Q)特に注意することはありますか?
A) リンパ浮腫で一番注意しなければならないものはケガなどによって感染症にかかることです。炎症が起こるとむくみは増加してしまいます。運ぶ能力が落ちている体に更なる負担をもたらします。疲労もむくみ増加の要因になります。以前はなんでもなかった事が体力の落ちた体に負担をもたらすので、今までより休憩を多くとることの方が良いように思われます。適度な運動は必要ですが、頑張りすぎるとむくむこともあります。動くことは必要ですが個人によって体力に差があるので、自分自身の適切な運動量を見つけることが大切となります。