7-1|手技の基本
リンパドレナージュでのマッサージは皮膚との摩擦を避けることが必要です。摩擦は皮下に充血、つまり皮膚が赤くなり少しの熱をもたらします。充血は血液循環が活発であることを示していますが、そうなると生成されるリンパ液も増加してしまいます。これを避けるためのテクニックは皮膚の上を「こする」・「さする」のではなく、手の接触面を皮膚と密着させて、動かす時には皮膚と一緒に皮下組織がずれる(動く)ことを利用します。
テクニックの基本は円を描く様に手を動かす方法です。特にセルフマッサージを行う場合には、専門的な技術者が使う様々なテクニックは使いにくい場合があるためです。
テクニックは1秒に一回程度のゆっくりしたスピードで皮膚と皮下組織を円状に動かします。リンパ液を排出する方向を決め、その方向へ向かって行く場合に徐々に力を加え、最大限に達したところから戻ってくる場合に徐々に力を抜くイメージで行います。力を加えるといっても押し込む感じではなく、あくまで皮膚との密着面が皮膚の上を滑らない程度の軽い圧(皮膚にシワがよる程度)と考えて下さい。この動作を同じ場所で5回程度繰り返したら隣の場所へ移動します。
リンパ浮腫では、むくみが非常に多くパンと張っている場合にこのようなズレはほとんど無く、その場で皮下組織を動かそうとしても動きがあまり感じられません。しかし同じ場所で動きを繰り返すうちに、皮下組織が緩んで来て動く範囲が徐々に広がってくることを感じられるようになります。
7-2|リンパ排出流路
◎排出する方向を定める
リンパ液を排出する方向はリンパ管の走行に基づいて決められますが、腕や脚のリンパ管は基本的に末端から中心方向へ向かって走行しています。つまり、排出方向は腕や脚それぞれの付け根方向であるということです。その他、「膝裏のくぼみ」はフクラハギからの、「足首の甲側」は足や足の趾からのリンパ液が集まってくるポイントです。そこへ向けてマッサージをします。手術や放射線照射を受けていないなどリンパ管やリンパ節が傷ついていない方でむくんでいる人(普通の人のむくみ)の場合は、この原則に従ってマッサージが出来ます。
リンパ管にダメージを受けているリンパ浮腫の患者さんの場合は、集まってくる付け根部分やその先の部分が傷ついているので、そこへリンパ液を誘導することはできません。この場合は傷ついていない健全に働いているリンパ節のある方向へ誘導する事となります。腕のリンパ浮腫の場合は反対側の腋の下、脚のリンパ浮腫の場合は同じ側の腋の下が一般的です。
脚や下腹部の皮膚に近い浅い部分のリンパ液は、一旦ソケイ部に集められ腹部の深い所を走るリンパ管を経由して最終的には静脈へ合流し、心臓へと戻って行きます。
腹部深部のリンパ管は腹式呼吸による腹圧の変化で刺激を受け活性化します。ですから脚や下半身のむくみな場合に腹式の深呼吸は大切です。ゆっくり大きくお腹を膨らませての深呼吸を20~30回ほど繰り返しましょう。同じく運動もむくみに対しては有効です。筋肉が緊張したりリラックスしたりすることを繰り返すことで、中を通っている血管やリンパ管を圧したり緩ませたりして、弁を持った静脈やリンパ管が血液やリンパ液を心臓方向へ送り出すポンプ作用を補助します。
特に脚は重力に逆らって血液やリンパ液を運び上げなければならないので脚の運動は大切です。第二の心臓ともいわれるフクラハギの筋肉の活動はリンパとむくみに関係します。座ってじっとしている時でもフクラハギに力を入れたり、足先を持ち上げたりして筋肉を動かすなどの工夫も助けになります。運動に関してはリンパ浮腫ケアと管理のページも参照してください。腕の場合は鎖骨の上の窪みと腋の下が重要です。リンパ管が合流する所だからです。乳がんや子宮ガンなどの手術でリンパ廓清を受けリンパ浮腫になった方は、このソケイ部や腋の下を郭清されているのでこの部位をマッサージすることはできません。そこを迂回する形でリンパ液を排出させます。また手術痕や傷跡などもリンパ管を分断していると考えますので、そこを横断する形でのマッサージは行いません。これを原則にしてリンパのマッサージは行われます。
7-3|基本のドレナージュ(顔)
◎顔面部・頭部のドレナージュ
1)顔面全体を軽擦してから始める。
2)皮膚をずらすように以下の順番で行う
①鎖骨上窩 ②側頚部(上下2)③後頚部を(上下2)④耳前頬部 ⑤オトガイから頬角 ⑥人中から頬角 ⑦鼻尖から耳前 ⑧鼻元から耳前 ⑨側頭部から側頚部 ⑩後頭部から側頚部 ⑪前額部から側頭部 ⑫頭頂部から側頭部
*これはリンパ経路に何のダメージもない場合のモデルケースです
手技:皮膚に当てた手や指先を、皮膚上を滑らせないで同じ場所で円を描くように皮膚にずらしを加える。<Stehendekreise(独)、Stationaly Circle(英)、ここでは描円手技と仮称>
マッサージで手や指を当てる大きさは、その部位の広さに合わせて行う。なるべく大きく当てる。
排出先付近から始めて徐々に中心部へ移行する。
中心部まで移行したら、中心部から排出方向へもう一度マッサージ。
⑫まで終えたら全体を軽擦する(さする)。
下顎骨の下側・眼窩付近・耳介のマッサージを加えても良い。
7-4|腕・上肢のドレナージュ
◎ 腕のドレナージュの順番
リンパ浮腫の方の場合は、健常な方の場合とは排出目標が違ってきます。
乳がんで腋の下のリンパ管などが除去や傷害を受け、腕のむくみが発生している場合、患部と反対側の腋の下が主な目標になります。患部と同じ側の腿の付け根も目標にできます。鎖骨の上の窪みも目標とすることが出来ますが、放射線が照射されている部位はマッサージできないので、注意が必要です。
順序は目標箇所から始め、その後隣の部分をマッサージし、更に隣へと移動します。「マッサージの順序」の項を参考にして、徐々にむくみのある腕の肩甲骨付近まで移動してください。ここまでが腕のむくみを取り込みやすくするための下準備、体の環境作りです。腕のマッサージは肩甲骨部分を目標にして同様に行います。腕の内側・外側・裏側を意識して、手を腕に密着させてマッサージします。肘の周囲、手首の甲側、手の甲、指にむくみがあれば1本ずつ丁寧に行います。排出方向は常に肩甲骨方向ですが、マッサージする部分の移動方向は手や指先になります。ここが少し混乱しやすい点ですが、「マッサージの順序」を思い出して下さい。
◎右腕にむくみがある場合の例です。右鎖骨の下の灰色の部分のように放射線照射があった場合、太い矢印のようなマッサージは行いません。その下の黒の矢印はソケイ部へ向かう場合の方向です。照射されていない部分から下のルートになります。心臓へ向かっている細い矢印は、体の内部を通って排出されるルートを示しています。腕は肩から肘まで・肘から手首まで・手掌と3つ程度に分け、手を出来るだけ広く当てて「ずらす」ことを繰り返します。手の大きさによって1つの部分も3~4部位に分けられます。上に書いてあるように内側・外側・裏側を肩甲骨方向へ、手の甲や指は手首の甲側に向かうようにマッサージし、手の平の中央部分は手首の掌側に向かいます。マッサージをする時にテーブルの上にクッションなどを置き、その上に腕を置いて腕が疲れないように、そして腕の筋肉が緊張しないようにすると便利です。
7-5 下肢のドレナージュ
◎脚のドレナージュの順番
子宮がん・卵巣がんやその他のがんの治療のため、骨盤腔内のリンパ管・リンパ節の切除などが原因で発生する脚・足の浮腫の場合のセルフドレナージュの場合も健常な方の場合と排出目標や経路が違ってきます。
◎左脚にむくみがある例です。基本的には浮腫のある脚と同じ側の腋の下が目標となります。本来は左の腿の付け根へと排出されるのですが、リンパ管・節が傷ついているのでそこへ集めてくることはせずに、付け根に近づいたら内側は内腿を通って臀部へ、外側は臀部の外側を脇腹方向へ排出します。恥骨の上などに浮腫がある場合は外側の上方向へ向かって脇腹方向へ排液します。腹式呼吸による腹部の圧力変化により、腹部の深い所にあるリンパ管を刺激してリンパ液の排出を補助します。順序は最初に腹式呼吸をします。その後腋の下から始めて胸脇・脇腹と進め、臀部外側まで行います。これが体に対する下準備です。上半身をドレナージュするのが困難な場合は臀部から始めることになります。
ソケイ部は避けますが、その他は通常のドレナージュと一緒です。目標箇所から始め、その隣、更にその隣へとマッサージする場所を移動して行き、最終的には足の甲や趾まで到達します。
椅子・台を使って
◎ 脚のドレナージュの場合、大腿部の後側やフクラハギがマッサージしにくい時は椅子や足台を使っても便利です。