ケアの内容はリンパ廓清(切除)術後の浮腫の発生状況によって若干違ってきます。
①入院中も退院後も浮腫が出ていない場合、将来「むくみ」の出るリスク要因は持っているということを自覚する事が大切です。2~3割と言われているリンパ浮腫の発症率ですので、逆に7割程度の方には浮腫が発生しないと言えます。あまり過度に怖がる必要はありませんが、浮腫は発症しないに越したことはありません。今までよりは少しだけ気を付けて生活することで、浮腫発生のリスクを下げることが可能です。今までは出来ていたことでも無理をせずにゆっくり行う事が秘訣です。疲れを感じたら休憩を多く取りましょう。
②入院中に一時的にむくんだが、それ以後は退院してもむくみは出ていない場合、①の場合とほぼ同じケア方法と言えます。ただ、①よりもむくみの発生に気を付け、セルフケアを取り入れることをお勧めします。
①・②の方は必ずしも浮腫用の圧迫ストキングなどを着用する必要はないと考えますが、負担に感じなければ予防のために軽いサポートストッキングの着用は悪くありません。ちょっとした注意でその後の面倒なケアを防止するという考え方です。
③浮腫がたまに出るが、いつも出ているわけではない場合は要注意です。セルフケアは必ず実践しましょう。浮腫の発症の仕方には突然発症して引かなくなってしまう場合と、出たり引いたりしながら引かなくなって継続してしまう場合とがあります。油断は禁物です。リンパ浮腫は完治が言えない病気ですので、発症しないように予防することが重要となります。この段階できちんとケアをすることで浮腫の発生を抑える事が大切です。
④むくみを繰り返す場合は③の場合よりもリンパ浮腫に近い状態です。セルフケアは必要ですが、一度は治療を受けて正確なケアを学習し実践する必要があります。出来れば間隔は空いても定期的にチェックを兼ねた治療を受け、良い状態を維持することでリンパ浮腫を防いで行く必要があります。
⑤浮腫が継続している場合、つまり「リンパ浮腫」になっている場合には積極的な治療が必要です。増えてしまったむくみを減量する為には弾性包帯を含む集中的で継続的な治療を行わなくてはなりません。減量の効果を実感出来るのに時間がかかる場合もありますが、常に自分のむくみの状態に注意していると変化を感じられるようになります。更に細くなった状態を維持出来るよう、セルフケアはもちろん圧迫着衣の着用などの日常生活でのケアも続ける必要があります。浮腫の状態を定期的にチェックをすることは④と同じです。
3-2|炎症
むくんだ状態が長く続くリンパ浮腫の方が急な発熱を伴う炎症を起こす場合があります。「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と言われるものです。
午前中は何ともなかったが、午後におかしいなと感じ、夕方には38度以上の熱が出て、体が震え、むくみの部分が真っ赤になってしまったという方がいらっしゃいました。熱は急激に高くなることが多く、急に悪寒がしてガタガタと震えがするので、冬などにはインフルエンザを疑われたというケースもあります。
消炎剤や抗生物質を処方されることが多いようで、3日程度の投薬で済むケースもあれば3日から1週間程度の入院をするケースなど様々です。軽い場合には37度を少し越える程度の熱で収まることもあります。数か月に一度とか年に一度は炎症症状を起こすという方もいらっしゃいます。
最初は熱は出ていなかったが、「皮膚に赤い斑点やブツブツが出来た」「肌の一部に赤味や熱感があった」などの症状の後に発熱するもケースもあります。因果関係ははっきりしませんが前兆なのかもしれません。
リンパ浮腫では炎症に体する心構えが大切になって来ます。炎症が起きた場合は直ぐにお医者さんにかかり、治療することが必要となります。
患部を冷やすことも重要です。何故急に炎症が起きるのかはっきりとは分からない場合でも、忙しくしていたとか、旅行から帰ってきて直ぐだったとか、体力が落ちている時に発生するケースが多いように感じます。自分で思っている以上に疲労が蓄積している場合も多く、リンパ浮腫になる前より多く休息をとったり、リンパのマッサージをしたりといった健康管理が大切となって来ます。炎症を起こさせないように注意することは、以後の体の負担を減らし、浮腫の悪化を防ぐことにもつながります。
リンパ浮腫になっていなくともこのような炎症が引き金になってリンパ浮腫になりむくみが継続してしまう場合もありますし、リンパ浮腫になってしまった方でも炎症の可能性を聞いていないとか、それを知らない方がいらっしゃいます。そのため一旦炎症が起こると、どう対処して、どのお医者さんに行ったらよいか惑われる方もあります。浮腫が軽い時期でも炎症は起きますし、炎症で浮腫が更に悪化してしまう場合もあります。どの様なものなのか、どう対処したらよいかを予備知識として知っておくことは重要となります。
3-3|全般的な注意
むくみは一般的に夕方や夜よりも朝の状態の方が良いことは多く経験されることです。立っていても座っていても、体の部位の多くはリンパ液の終着点である心臓より低い位置にあり、重力の影響を受けて戻りにくくなり、停滞を起こしやすくなっているためです。体が横になった状態では、心臓の高さは脚や腕と同じような高さに位置するため血液やリンパ液は戻りやすくなります。また、脚を高くして寝ることも心臓よりむくみの位置を高くし、重力に従って戻りを良くします。
疲労もむくみを増やす要因であり、長時間立ち続けたり、歩き続けた後だけでなく、疲労を感じる場合にもむくみが増えているケースも多くあります。自分自身が疲労を感じていなくてもむくみが現れることがあり、この場合は気づかなくても体に疲労がたまっているサインとしてむくみが表れていると考えられます。そのような時は休息をとるタイミングとして捉えると良いと思います。加えて、リンパ浮腫の方は健康な方に比べてリンパ液を運び出す能力が落ちているので、少しでも負担を減らし回復を図るためにも一層こまめな休憩が必要になります。今までは簡単に出来ていて問題なかったことでも、意識して休憩を多く取り入れることが大切です。
むくみは常に一定の状態を保っているわけではなく、その日その時、体調によって変化するものなので常に注意し、対応することが求められます。しかし、あまり神経質になりすぎてむくみの増減で一喜一憂してしまうと精神的にまいってしまうので、健康管理の一つのバロメーターとして捉えることも必要かと思います。
リンパ浮腫の方が全般的に注意することは、
①一部分をきつく締め付ける下着や、ゴムのきつい下着は着けない。
②蚊や虫刺されに気をつけ、予防する。さされた場合は直ちに手当てする。
③むくんでいる部分に負担をかけること(腕枕・正座など)をしない。
④しもやけ・火傷・日焼けを予防。
⑤アレルギーや肌に合わない化粧品に注意。
⑥むくんでいる部分を激しく使うスポーツは避ける。
⑦むくんでいる四肢には注射も控える。
⑧強く揉み込むマッサージはしない。
⑨長時間同じ姿勢を続けない。
などです。
また、旅行などで一時的にむくみが出ても休養を取り、きちんと治療し、浮腫の管理を続けることが大切です。
3-4|浮腫の状態の違い
リンパ浮腫でもむくみの出る部位は様々です。手術などによってダメージを受けているリンパ管やリンパ節は腋の下や腹部・ソケイ部ですので、体幹部に近い方がむくみがより多く出現すると思われますが、実際には色々なパターンがあります。むくみが多く、他の部位よりも部分的に太くなっていることを「強調」と言います。
下肢の場合、
○大腿部から足・趾まで全体の浮腫
○大腿部から足首までに浮腫が多く、甲には浮腫が少ない
○大腿部だけに浮腫があり、膝下の浮腫は少ない(大腿部強調)
○大腿部は浮腫が少ないが、フクラハギや足の甲・趾に多い(下腿強調)
○足・甲だけに浮腫が多い(足強調)
上肢の場合、
○上腕から手の甲・指まで全体の浮腫
○上腕に偏った浮腫(上腕強調)
○肘から先、指までの浮腫(前腕強調)
○手の甲・指だけの浮腫(手掌強調)
などのパターンがあります。
リンパマッサージでは強調されている部位に多くの時間をかけます。また、弾性包帯の時にできてしまった患肢のデコボコもマッサージで補正できます。補正した上で圧迫治療を加えると効果的です。圧迫療法は強調部位に応じた圧迫を加えることも出来ますが、部分的な圧迫は他の部位にむくみが移動する可能性があるので慎重に行うことになります。
3-5|圧迫治療の注意
リンパ浮腫治療で使用する圧迫療法には弾性包帯と弾性ストッキング・スリーブがありますが特徴には若干違いがあります。
リンパ浮腫治療の初期段階では、その時々に変化する浮腫の状態に対応出来る弾性包帯が優れています。弾性包帯の圧力も常に一定に保てるわけではありませんが、患肢の形に合わせたり、きつく感じる場合には圧を加減したりできる融通性がありますし、スポンジなどで補助することも出来ます。
弾性ストッキング・スリーブはたとえサイズに合わせたオーダーメイドであったとしても浮腫の状態の変化が大きい場合には不利となります。
既製品の場合はその人ごとにむくみ方の違う患肢に合わせることが更に難しい点と言えます。上述の通り浮腫の強調状態は個体差が激しいのでなおさらです。そのため、ある程度浮腫が減少して安定した場合にストッキング・スリーブを使用する方が効果的となります。
活動性や利便性の面で、また経済性の面でもストッキング・スリーブが優れているため圧迫着衣が主となっていますが、浮腫を減少させたい場合には弾性包帯とのコンビネーションも有効です。外出時や活動時は弾性着衣を使用し、外出しないで家にいる時間が多い場合には弾性包帯を巻く使用法です。巻き方は慣れることが必要ですが、難しく考えずにチャレンジすると良いと思います。「ドイツの治療」でも書きましたが、入院治療後期の安定した状態になって退院後に使用するのが弾性着衣本来の使用法といえます。
3-6|組織の変性
体・組織の変化
むくみ(浮腫)が長い期間続くと、常に体の内側から膨張刺激が加わって皮膚に変化(変性)が現れてきます。全ての人がそうなるわけではありませんが、割合に多く見られます。
皮膚がカサつき、乾燥肌のように粉をふいた状態や皮膚が細かい状態で(フケ状)浮いてボロボロとはがれてきます。更に皮膚がぶ厚く、硬くなり、時にはかかとの皮膚のようにガサつきます。関節部分のヒダは深くなりデコボコした状態が見られます。手や足は赤ちゃんの様に、ふっくらとした甲のふくらみから指や趾が突き出て見えます。
色素が集まり出して黒ずんでくることもあります。
リンパ浮腫が進行すると皮膚の弱い部分からリンパ液が漏れだしてくることもあり、それが広がって潰瘍状態となることもあります。いわゆる象皮症です。皮膚を突き破ることは感染症にかかりやすくなる事でもあり、浮腫を悪化させる要因になるので充分な対処が必要です。そのため早期の治療が大切と言えます。
リンパ浮腫の方は普段から皮膚の状態に注意を払い、それ以上浮腫が増加しないことを第一に考える事が大切です。また、リンパ廓清をされた「浮腫の可能性を持っている方」も皮膚の状態を常にチェックし、変化に注意して良い状態を保つ努力が必要といえます。