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1)リンパ浮腫治療

リンパ浮腫治療
基本

手術などによりリンパ器官へのダメージを受けた方に「むくみ(浮腫)」が起こり、それが長期間続く疾患が「リンパ浮腫」と定義されます。その治療法は現在では様々に用意されていますが、いわゆる「リンパマッサージ」を中心とする複合理学療法は、ドイツなどで長い実績があります。
「むくみ」のある部分に滞っている間質液(いわゆるリンパ液)を、ダメージを受けていない健全なリンパ管を経由して減らしていくことが目標になります。マッサージをしてリンパ液の取り込みを増加させ、患肢を圧迫してむくみを減らし、運動も加えて良好な状態を目指すことが基本です。
また「リンパ浮腫」は一旦発症すると、治療により完治する(むくみが減少して再びむくまない)とは言い切れない病気ですので、現在「むくみ」が無くとも、手術などによってリンパ器官にダメージを受けている可能性のある方は、発症しないように普段から注意して生活する必要があります。


1-1|リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫の治療の中の一つに複合理学療法があります。
1)リンパドレナ―ジュ・徒手リンパ排液法と称される特殊なマッサージ
2)圧迫弾性包帯や圧迫ストッキング・圧迫スリーブによる圧迫療法
3)運動療法
4)スキンケアを含む健康管理 
を組み合わせた治療法です。
乳がん・子宮がん・卵巣がん・大腸がん・膀胱がん・前立腺がんの治療によるリンパ廓清(切除)だけでなく、放射線治療を行った後の続発性リンパ浮腫に適応とされています。
がんや手術の経験が無い原発性(一次性)リンパ浮腫、ケガをした後の一時的な浮腫の軽減に対しても有効です。


1-2|治療の目標

治療で目指すところは第一に浮腫を減らすことです。ただ、どの程度減少させられるかは予測が困難です。
リンパ浮腫には多くの要素が関係しています。
1、リンパ管のダメージの程度:手術の範囲・全摘・部分切除・センチネル・放射線治療・リンパの廓清状態など、どのくらいリンパ器官にダメージを受けているか。
2、ご自身の体質(個人差):もともと体に形成されている(備わっている)リンパ管ネットワークの違い(この違いで一次性リンパ浮腫が発症することもありますし、同程度の手術を受けても浮腫を発症する方としない方が出現すると考えられます)。
3、むくんでいた期間:浮腫が出現してからの期間が長いと、組織の増殖や変性が多くなり、むくみをため込みやすくする構造が出来て、安定してしまいます。
4、生活の中での活動量:疲労するとむくみは出やすくなります。日常生活に戻るとご自身ではそれほどとは思わなくとも体に負担がかかっていることがあり、むくみが悪化する場合もあります。適度な運動量は必要ですが見極めが難しいと言えます。
セルフマッサージだけしかしていない、圧迫着衣しかしていないなど、治療の治療の内容・正確さ・回数・頻度によっても効果が違ってきます。
目標を設定する時には、今のむくみの状態を悪化させない事、良い状態を維持すること、違和感が無く生活できることも目標に含まれます。


1-3|ドイツでの
         リンパ浮腫治療

ドイツで行われている複合理学療法の大まかな流れを説明します。
一般的なリンパ浮腫治療の場合4週間~6週間程度の入院治療によって集中的に浮腫の減量を図ります。浮腫の程度によって入院期間は異なり長期の入院治療の場合も多くあります。
入院期間中の一例を挙げれば、朝起きてシャワーを浴びます。その後、治療室でセラピストから1)リンパドレナ―ジュと、2)弾性圧迫包帯を巻く(テーピング)治療を受けます。
休憩の後、午前中や午後などに運動の時間があります。浮腫が厳しい場合には午後にドレナージュとテーピングをもう一度行います。その後は普通に過ごし、就寝し、翌朝弾性包帯をはずし、シャワーを浴び、再び治療に向かうという一日を繰り返すことになります。
特に体重の減量を図る場合でなければ特別な入院食などもなく、治療が休みとなる週末に一時帰宅も出来ます。入院中は浮腫の計測や検査があり、医師による回診もあります。退院が近づくと減量された浮腫のサイズを測り、退院後に着用するオーダーメイドの圧迫ストッキング・圧迫スリーブを作ります。退院時にはその圧迫着衣を受け取り、退院後の浮腫治療や生活上の注意を伝えられます。
退院後は住んでいる地域にあるリンパ浮腫の治療施設へ通うこと良好な状態を維持するようになります。このように、集中的に浮腫の減量を図り、自宅でその良好な状態を維持するケアを行うことがリンパ浮腫の治療です


1-4|リンパドレナージュとは?

 ◎ リンパドレナージュ(リンパマッサージ法)とは?
 Vodder式リンパドレナージュ<Manuelle Lymphdrainage ad modum Vodder> (徒手リンパ排液法・用手的リンパ排液法・リンパドレナージ・Manuelle Lymphdrainage・Manual Lymph drainage)はデンマークの人Phil Emil Vodderにより考案されたマッサージの一種です。細胞と細胞の隙間である間質に停滞している液体(いわゆるむくみ)を除去することを目的とし、リンパ管系と間質組織に作用するマッサージ方法です。
1932年にVodderは理学療法士としてフランスで働いていた当時、リンパ性疾患の患者を治療した時にこれを着想し発展させ、1936年パリの「美と健康展」で公表しました。特徴は数秒単位のリズムで、排液方向へ、回旋性の動きで、広い面を用いて、皮膚をこするのではなく、軽い圧を加えた後に圧を軽減するという方法で、従来の一般的なスウェーデン式マッサージとは手技を異にしています。また直接皮膚面に働きかけ、皮膚のすぐ下にある結合組織に作用させるので、オイルやクリームといった滑材を用いないのも、ヨーロッパにおけるクラッシックなマッサージとは異なります。
皮膚面での摩擦によって強度の充血を起こすことを避け、リンパ管系によって排液しなければならない物質、いわゆる「リンパ性負荷」を増やさずにリンパの排液を促進すことを目的にしています。Vodderはドイツ人医師Asdonkと共にリンパ浮腫への応用と手技の啓蒙を進め、オーストリアのWittlingerとも手技のコースを開設しました。
 Vodder式リンパドレナージュを含む複合理学療法は、ドイツでは1973年に公的機関から適用が認められ、1985年理学療法協会は多少混乱のあった状況を一つの枠組にまとめました。更にスイスのチューリッヒ大学のKubik(クービック)教授やFöldi(フェルディ)教授などによるリンパの研究の発展する中、ドレナージュを中心としたこの療法は各国へと伝えられ、広く普及しています。
当治療院で行っているリンパマッサージはこの方法を用いています。