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2)むくみとマッサージ

2)むくみとマッサージ

2-1|むくみとは?

浮腫(むくみ)とは、細胞や組織の間にある間質液(体内の水分)が排出されずに滞ったままでいる状態を指します。
間質液はリンパ管に取り込まれる前の状態ですので、正確にはまだリンパ液とは呼べず、停滞している間質液がリンパ管盲端(もうたん)というリンパ管の最初の入口からリンパ管内に取り込まれた時に、初めてリンパ液と呼ばれるものとなります。細かく言うとリンパ管に取り込まれる前は同じものであってもリンパ液とは呼べないのです。
むくみはリンパが溜まっているからという言い方をされることが多いのですが正確であるとは言えません。
 間質液が取り込まれにくくなる原因は様々ですので、単純に「むくみはリンパがとどこおっているから」という言い方は正確さを欠きます。新陳代謝での間質液の再吸収との関係や、リンパ管の活動低下などの原因を考えて、その原因にあった適切な治療を見極める必要があります。
通常、動脈で運ばれて来た血液量を100%とすると、静脈で再吸収されるものが90%で、残りの10%がリンパ管に取り込まれて再吸収され(つまりリンパ液)心臓へ戻され血液として循環するとされています。血液循環量の全体量が増えると当然にリンパ液量も増加します。リンパ管を経由した排液が行われにくい浮腫の状態で、排液しなければならない液体を増やしては、リンパ管への負担を増加させることになります。ですので、極端な充血を生じる(つまり血液循環量が増える)治療は控える事が必要です。熱いお風呂に入って体が真っ赤になることや、皮膚をこすったり、揉みこんだりしてその部分が赤くなることも、リンパ液を増やすことになるため避けることが大切です。
ですからリンパドレナージュは当てた皮膚の上の手の位置が移動しないことが原則です。


2-2|リンパの流路

脚や下腹部の皮膚に近い浅い部分のリンパ液は、一旦ソケイ部に集められ腹部の深い所を走るリンパ管を経由して最終的には静脈へ合流し、心臓へと戻って行きます。腹部深部を通るリンパ管は腹式呼吸による腹圧の変化で刺激を受け活性化します。ですから脚や下半身のむくみの場合に腹式の深呼吸は大切です。ゆっくり大きくお腹を膨らませての深呼吸を20~30回ほど繰り返しましょう。
運動もむくみに対しては有効です。筋肉が緊張したりリラックスしたりすることを繰り返すことで、筋肉中を通っている血管やリンパ管を圧したり緩ませたりして、弁を持った静脈やリンパ管が血液やリンパ液を心臓方向へ送り出すポンプ作用を補助します。特に脚は重力に逆らって血液やリンパ液を運び上げなければならないので脚の運動は大切です。第二の心臓ともいわれるフクラハギの筋肉の活動はリンパとむくみに関係します。座ってじっとしている時でもフクラハギに力を入れたり、足先を持ち上げたりして筋肉を動かすなどの工夫も助けになります。運動に関しては治療の注意点のページも参照してください。
腕のリンパ管の流れでは、腕からと乳房や体幹部のリンパ管が合流する腋の下が重要です。
首から上と肩の一部からのリンパが流れ込むのは鎖骨の上の窪みです。
乳がんの手術で腋の下のリンパ廓清を受けリンパ浮腫になった方は、腋の下の部位をマッサージすることは出来ません。廓清や放射線照射を受けていない側の腋の下や鎖骨の上の窪みを利用します。
子宮がんなどでソケイ部のリンパを郭清されている方はソケイ部をマッサージすることはできません。そこを迂回する形で臀部・脇腹や背中を経由してリンパ液を排出させます。
手術痕や傷跡などもリンパ管を分断していると考えますので、そこを横断する形でのマッサージは行いません。
これらを原則にしてリンパマッサージは行われます。


2-3|リンパマッサージの考え方

◎リンパマッサージ法の考え方
リンパ管がむくみを減量させる様子は掃除機でイメージすることも出来ます。
掃除機は吸い取ったゴミを溜めておくゴミパックが一杯では吸引力が落ちてきます。吸引力を回復させるためには
①パックに溜まったゴミを処理(捨てる)します。
②吸い込むホースの途中にゴミが詰まっていたら、それも処理します。
すると吸引力が増加し、③ゴミを多く吸い込むことが出来るようになります。
このゴミに例えたものが間質液(リンパ液)です。リンパ排液法を行う時に先ず流れ込む先(最終目的地にするリンパ節)のリンパ管やリンパ節をマッサージするのは、ゴミパックに溜まったゴミを処理するという意味です。リンパ液の排出を増加させるリンパドレナージュが心臓の負荷を増加させる場合もあるので注意する必要があります。
この方法は「リンパ浮腫」というリンパ管やリンパ節が傷ついたことが原因のむくみであって、「腎臓や心臓に原因のあるむくみではない」と分かっている場合に有効です。


2-4|鉄道に例えると

 リンパ浮腫・むくみの解消のイメージは雪などで路線に障害が起こり、駅に乗客があふれた状態と似ています。
 手術によりリンパ管やリンパ節が切除されている場合、目的地へ向かう時に途中の線路(リンパ管)や駅(リンパ節)が使用不可能で不通になっていて、迂回をしなければいけない状況です。そのため列車の運行が滞り、駅から車両が出発できずにホームが乗客であふれ、さらに駅の外にまであふれてしまいます。これらあふれた乗客がむくみと言えます。外にまであふれた乗客を減らすことがむくみを解消する事なのです。
 そのためには、
 ①線路上で止まっている車両を目的地に近い所から順番に移動させ線路を確保します。治療ではリンパ液を移動させる目標の部位を最初にマッサージし、次にその隣の部位をマッサージすることを順序良く繰り返します。
 ②駅に止まっている車両を動かして輸送力を回復します。治療ではリンパ管を刺激して活動を活発にさせることです。リンパ管へのマッサージです。
 ③新たな車両にホームにいる乗客を順に乗り込ませます。リンパ液の取り込み口がリンパ管の末端に有るのでその口を開かせリンパ管への流入を促進させます。治療では浮腫部位のマッサージといえます。ホーム自体が空くので外にまであふれた乗客を駅へ呼び込むことができ、外で待っている乗客が減る、つまりむくみが減少します。
この様にリンパマッサージの手順を理解すると、どうしてこのようにマッサージするのか納得できるかと思います。
目的地(最終的には心臓)へ向かうには、手術痕や傷跡などの「不通箇所」を避け、健康に働いている「正常な線路」を選択します。そのために回り道をすることになるのです。
また、輸送ルートの確保(リンパ液を流すこと)に注目しがちですが、ホームの乗客を車両へ乗り込ませること(リンパ液をリンパ管に取り込ませること)の方が重要です。掃除機のモデルと併せてイメージしてみてください。