複合的理学療法
リンパ浮腫の臨床2
治療の違い
手術などの後に発症するリンパ浮腫は数多くのリンパ管・リンパ節の破壊が原因です。
その治療として「スキンケア、圧迫包帯または圧迫着衣による圧迫、高位保持、運動療法または運動訓練を含む Vodder式徒手リンパドレナージュは、効果的なリンパ浮腫の治療方法に必要である。すべての方法を上手に組み合わせることで効果を発揮する。」と Pritschowは述べています。
「第一段階の浮腫とがん手術直後は通常、完全な運動性を回復し、手術後の浮腫を除去・軽減するためにリンパドレナージュと運動療法は不可欠である。患者は術後にリンパ管に関する病理的過程について教えられ、病気の自己管理に必須の内容(行動指針・セルフケア)について教えられる。」たとえその時点で浮腫が発症していなくとも「浮腫のリスクが存在し、重苦しさや、浮腫が初めて現れた場合には、直ちに医師にかかるべきであることを患者は知っておく必要がある」としています。
「第二段階の浮腫が現れたならば、複合的理学療法は不可欠である。浮腫の程度と柔軟性(結合組織増殖の程度)によって、複合的理学療法の第一段階であるうっ滞解消( 3- 4週以上の治療)か、第二段階である維持または良好化段階の治療かの決定を下さなければならない。第三段階である象皮症の場合ではうっ滞解消・軽減段階に複合的理学療法のすべての方法を用いる」と、その違いを詳述しています。
その後の治療
「うっ滞解消治療段階(軽減段階)が終了してもリンパ浮腫治療は終了ではない。複合的理学療法はリンパ浮腫の原因療法ではあるが根治療法ではない。患者は生涯にわたり治療を受けなければならない。今後継続する維持および良好化である第二段階の治療は、浮腫再出現の傾向によってその頻度が定められる。」と述べています。「患者が圧迫着衣だけで浮腫を 10日間抑えられた場合でも、 11日目から指や手などのその他の部分には浮腫はないが、当該部分に圧迫の増加を感じむくみ出すことがある。天候や心身の状態(ストレス・精神的緊張・肉体的に厳しい仕事)が浮腫再出現傾向に対して顕著に影響を与える。」ことを挙げ、継続治療の頻度については浮腫の状態に合わせて適切な回数を行うべきであると述べています。
判別
リンパ浮腫の診断は機器や精密検査を用いることは少なく、既往歴・身体所見によって行われることが多いといえます。早期リンパ浮腫の場合などが例外で、リンパシンチグラフィーなどが用いられます。原発性リンパ浮腫の場合、浮腫を伴う疾患の検査を様々に行った結果、異常が見出されずに可能性を否定された後でリンパ浮腫の診断が下されるケースがほとんどです。診断までに数か月から一年以上かかることも稀ではありません。
浮腫の治療の際には既往歴・視診・触診などにより、状態を把握することが大切です。
Pritschowによれば、
「既往歴:患者への重要な質問は浮腫が最初に現れた時期と場所であり、外傷・感染・特に負担のかかった状況である」としています。質問内容としては
○出現時期
○疾患のこれまでの時間的経過
○これまでの治療
○ダメージ回復の障害(腋窩再建後など)
○家族歴
○痛み
があります。さらに、手術または放射線治療後の浮腫の場合は二次性の併発症の治癒の経過を質問すべきである。場合により、蜂窩織炎などの有無も把握しなければならないことを述べています。しかし、「悪性腫瘍治療後の続発性リンパ浮腫では、悪性リンパ浮腫と呼ばれる腫瘍の再発が生じた疑いを質問で明確にすることは困難である」としています。
視診
「視診では顕在化したリンパ浮腫の全体的な範囲及び、二次的な皮膚と結合組織の変性の発生を把握する。皮膚のシワの深化・リンパ嚢胞・乳頭腫・色素沈着の拡張などを記録しなければならない。過度の発熱を伴った強度の発赤は、典型的な併発症である蜂窩織炎の形態を示唆している。
視診所見
○発現したリンパ浮腫の規模
○皮膚変性(色素沈着・嚢胞・廔孔など)
○炎症症状
○リンパ漏
○血腫様瘢痕
○患者の全体的な運動性」
を挙げています。
触診
「触診は出現した浮腫の硬さを判断し、それにより(浮腫の)段階(第一段階・第二段階)の判別を可能にする。領域リンパ節はその大きさと硬さに関して慎重に検査されるべきである。陥凹の形成は、圧迫時の疼痛と同様に脂肪浮腫とリンパ浮腫の鑑別診断となりうる。
触診所見
○硬さ
○局在性
○発生した線維症の分布と規模
○乳頭腫
○ Stemmerサイン
○リンパ節の状態」
としています。
これらの判別点は大まかではありますが、浮腫治療時の注意点ともなります。
所見
浮腫の診断を含む治療時の注意点や記録を作成する際の具体的な内容については、Földiの「リンパ学」「Lehrbuch der Lymphologie(D)」には、より詳細な内容が記載されています。例示すると
「1、既往歴
・(リンパ廓清など)手術の目的と日時
・放射線治療の有無
・浮腫が最初に発生した部位と日時
・浮腫発生に対して、思い当たる原因、炎症、腫瘍の再発など
・浮腫のこれまでの経過と行われた治療
・現在、特につらいと感じていること、その様子
・浮腫をどの様に自分自身が感じているか」
Pritschowには無い家族歴が挙げられていますが、内容は同一と言えます。患者は痛み以外にも重だるさ・はばったさなどの感覚や不快感を持っている場合があり、それら主観的な事柄を取り上げていることが目立っています。
「2、浮腫の所見
〇皮膚変性・浮腫の硬さ・押すと凹みが残るか・リンパ性線維症
〇 Stemmerサイン・浮腫が膝や肘より遠位に発生しているか・中枢側に強調されている(太い)か、
〇リンパ瘻孔・リンパ嚢胞などの有無」といったといった浮腫の様子は同様ですが、
「〇浮腫が単純性のものか複合的なものか
〇静脈瘤や脂肪浮腫といった併発症」という複合的要素も提示しています。
チェック項目としては全体的な外観(頭部・胸腺・腹部など)も組み込み、視診や触診を行います。
「3、機能評価
〇自動・他動運動での浮腫肢の可動域
〇運動の様子・庇い動作・回避動作
〇日常生活での活動性」など、治療の方向性に必要な項目も挙げています。
その他、治療プランの作成と評価の為に
「疼痛治療、浮腫の軽減期・維持期、浮腫の重篤度」から「ストッキングの状態、セルフテーピングが出来るか」なども含まれています。
現在