複合的理学療法
理学療法
その他の理学療法
治療に使用されるその他の理学療法について Földiを参考に検討します。
温熱療法
「どの様な充血であってもリンパ性負荷の増加を招く。このためファンゴや泥パックなどは浮腫領域には禁忌である。温度が約 41℃を超えるとリンパ時間流量は低下する」としている一方で、「浮腫領域以外に対する局所的な温熱の使用は、経験上状態を悪化させない」とし、「禁忌であるのはサウナ・水量の多い温水プール・温泉浴など体全体に対する使用である」とされています。
冷却療法
「四肢のリンパ浮腫における冷却の使用は適応ではなく、低温はリンパアンギオン運動の減少をもたらす」
水治療法
「水治療法処置は下肢の静脈性疾患に特に有効であることが確立されているが、四肢のリンパ浮腫施術では無条件に適応とは言えない。効果が認められるのは、水泳または水温 22℃から最高 30℃の間のアクアジョギングである」
マッサージ
この場合のマッサージはリンパドレナージュを除いた一般的マッサージ(クラシックマッサージ)、結合織マッサージで、当該浮腫領域と関係している体幹四半分領域には禁忌である」
運動療法
「 CDPの中で運動療法は、それによって筋肉ポンプとリンパ輸送を刺激する基本的な要素である」ことは明白ですが「水中での運動では水温 32℃以上では浮腫発生のきっかけになる可能性がある」としています。
日常生活の中での運動について Pritschowでは、「運動は体調や体調を構成している要素に対してプラスの方向へ作用するだけでなく、精神面や免疫系にもプラスに作用する」「健康であるとの自覚は満足感や免疫系にも効果をもたらす。これら健康であるという自覚はスポーツを通じて得られることもあり、スポーツ・精神・免疫系はサイクルを形成している」「それゆえ運動は生活の質と健康であるという自覚の向上をもたらす」
「心配される副作用は、リンパ浮腫には浮腫発生の危険性が生涯にわたって存在し、患肢に負荷がかかり過ぎた場合にその危険性が高くなるという、活動性に対する障害が存在することである。運動にはリンパ管システムにとってマイナスの作用があることは知られており、上肢の場合、長時間激しく腕を振り回すような運動などは原則として回避されなければならない。それ以外はどの様な運動も行うことができる。その場合は、体にかかる負荷の強度次第といえる」「運動強度は負荷に対する主観的な感度、つまり患者が運動負荷をどの程度に感じるかによってのみ導き出すことができる」と運動と疲労のバランスの重要性を説いています。
スポーツにおける運動を分類すると「持久性、筋力、可動性(柔軟性)、敏捷性、調整力の維持または促進に区分している」「全般的な持久力は治療経過に関係してこない。同様に敏捷性もここでは重要ではない。急激な動きとそれに関連して起こるリンパ管の障害という危険性の方が大きい」とされ、「可動性と筋力の維持または促進」を目的にして行われます。「運動の選択に当たっては、筋肉ポンプ・呼吸・動脈の拍動・関節ポンプ・重力などリンパ排液の促進メカニズム」に留意する必要があります。
「・運動の実施に当たっては痛みを生じさせてはならない。
・正確に実施することに留意する。運動制限により訓練の正確な実施が妨げられる場合は中止する。それ以後のタイムスケジュールについてはもう一度検討する。
・焦りは禁物である。徐々に始めるべきであり、それによって体への負担のかけ過ぎを防ぐ。少ない方が良い。
・運動の前には少なくとも 10分間の持久的スポーツ(自転車、ジョギングなど)を用いたウォーミングアップを必ず行う」などに注意を払います。
「運動やトレーニングを行う目的は、そのことにより日常生活の健全性を高め、持久性を向上させ、生活の質を高めることである。運動とスポーツは人を爽快にして健康と健全さをもたらすことに寄与する」こととされています。
外傷性の浮腫1
複合理学療法はリンパ浮腫だけに使用されるものではありません。むくみは様々な原因で生じますが、既に挙げているほかにも適応であるむくみがあります。 Pritschowから抜粋します。
外傷性「 Posttraumatische(D)」の浮腫
傷害の原因
・メカニズム性:機械的な原因による損傷で、高度な競技スポーツにおける殴打・転倒または組織構造への過負荷といった鋭器損傷および鈍器損傷
・温度性:過度の日焼け、放射線治療、直火による火傷
・化学性:昆虫、化学物質、酸、アルカリ、薬の毒性
・感染性:バクテリア・ウイルス・菌の感染
これらに対する身体的反応は炎症であり、臨床上の症状では
〇腫脹(腫れ)
〇疼痛(痛み)
〇発赤(発赤)
〇発熱(熱)
〇機能喪失
が挙げられます。
「バクテリアによる急性のものでない無菌性の炎症の治療に対して、 MLDを用いた治療は大変に重要である。バクテリア性の急性炎症には MLDは絶対禁忌である」としています。
炎症は急激に短期に進行する急性炎症と、ゆっくりと進行し長期間にわたって発症し続ける慢性炎症とに分けられますが、炎症時の身体の病理的応答は以下の通りです。
「前毛細血管細動脈:ブラディキニン・ヒスタミンなどの炎症性物質は前毛細血管細動脈の拡張をもたらす。更に、これら炎症伝達物質は毛細血管の透過性を亢進する。能動的充血と毛細血管透過性の亢進はリンパ性水分負荷だけでなくリンパ性蛋白負荷も著しく増加させる」
「前毛細管細静脈:炎症伝達物質によって前毛細管細静脈領域の透過性も上昇するので、この領域全体では、ろ過や実質的な再吸収は行われない一方で、リンパ性負荷が著しく増加する」
「リンパ管:リンパ管システムは先ずリンパ時間流量の増加により、リンパ性負荷を相殺しようと企てる。しかし、損傷部分の局所で直接的に外傷を受けているか、その損傷部分の近辺での痛みの為にリンパ管痙攣を伴っている。リンパ管の損傷を伴う外傷でも、リンパアンギオンの痙攣を伴うどちらの場合でも、リンパ管システムの輸送能力の低下をもたらし、リンパ管システムはその与えられた役割を果たすことが出来なくなり、不全になる。リンパ管システム不全の複合した状態では、リンパ性負荷(水分と蛋白質)は顕著に増加し、リンパ管システムの輸送能力は著しく低下する。結果として蛋白質過多の浮腫になる」
「侵害受容器:圧に対して特化した侵害受容器は浮腫による組織圧の上昇を、損傷をもたらす可能性のある刺激であると認識し、痛みの信号を出す。他方、間質中の酸・塩基の状態により浮腫中に生じた PH値の変化を特殊侵害受容器が感知し、同様に痛みの信号を出す。これらの痛みはその損傷部周囲のリンパアンギオンに痙攣を生じさせ、そのことでリンパ管システムの輸送能力低下をもたらす」
この時に複合的理学療法、特に徒手リンパ排液法「 MLD(B)、 ML(D)」はむくみと痛みの軽減を目的として行われます。
「〇 MLDを用いて浮腫を軽減し、高くなった組織圧を低減する。結果として痛みが減少する。
〇同時に間質中の PH状態を相当程度正常化する。
〇機械的受容器(メカノレセプター)への刺激を通じた痛みの誘発を MLDにより阻害する」
結果として痛みの除去・軽減は運動性の向上に直結します。
たらすことに寄与する」こととされています。
外傷性の浮腫2
外傷性の浮腫は蛋白質が過剰である浮腫で、結合組織増殖の虞があります。「この結合組織の線維化はコラーゲン線維の増加によって発生し、漸次に硬化と瘢痕化をもたらす。非常に多くのケースで運動性障害が生じる」(Pritschow)と述べられています。MLDはこのような浮腫に対しても有効であると考えられます。
関節損傷の際の CDPと関節内滑液との関係についても、膝関節内に色素を注入した実験でマッサージにより膨張が減少し、色素が滑膜とソケイリンパ節間の全ての液路とリンパ路に見られたとする結果から、「関節内の滲出液も短期間で MLDおよび圧迫を用いて除去できる」可能性について言及しています。この際には「関節内滲出液なのか関節外滲出液なのか確認しておく」必要があり、「不可逆的な関節障害である関節血腫「 Hämarthros(D), hamarthros(B)」(血液性関節浸出液)を短期間に生じることがある」ため「医師による穿刺により単なる滲出物であるのか血液滲出液であるのかを確認する」としています。
「外傷性関節症の場合の CDPは:
最初の手当は圧迫と冷却で、それから疼痛の緩和とうっ滞解消のための慎重なけん引療法を伴って MLDを受傷後 2~ 3日に行う。痛みが無くなれば即座に、マニュアルセラピー・軟組織テクニック・筋肉ストレッチ・等尺性運動・等張性運動を行う。比較的に運動の安定性が大きくなってきたら PNFを施し、最終的に固有受容性感覚、その後歩行訓練との協調を練習する。そうしてから患者はトレーニングセラピーへと進む。
傷害後の浮腫と手術後の浮腫は、通常 10~ 14日で自然に消滅する。つまり、われわれが MLDと圧迫を行うのは主として疼痛と浮腫の症状に対してである。傷害性の浮腫や手術後の浮腫が 2~ 3か月以上の長期にわたっている場合、傷害性浮腫の二次性リンパ浮腫の可能性がある」としてその範囲を規定しています。
「傷害性の浮腫は通常、即座に第一処置(ファーストエイド)を行う。アスリートを休ませ、傷害箇所を冷却し、患肢を高位保持する。万一のコンパートメント症候群や塞栓症など生命を脅かす危険性のある損傷を排除するため、アスリートは医師の診察を受けなければならない。アスリートは医師の検査後、 MLDと冷却・圧迫を専ら行う。アスリートは安静にして患肢を高位保持し、痛みが消えたら弾性包帯をしたままアイソメトリックのストレッチ運動を始める。治療効果としては、血腫および蛋白質過多性の浮腫の素早い除去によって無用な二次性の組織変性を防ぎ、治癒過程での望ましい環境作りと、出来るだけ早期のトレーニングの再開が可能になる」としています。
「傷害や手術後に一側の肢の浮腫を治療する場合、 MLDは常に隣接する障害のない領域リンパ節から治療を開始する。その後、患肢の近位部分をリンパアンギオモトリックを刺激するように伸長して治療する。また、痛みで妨げられなければ損傷部位も治療する。浮腫や血腫の周囲は吸収面を大きくするために放射線状(星状)に排液する。その間は常に近位方向へ排液を行う。術者はこの手技を用いて比較的早く損傷部の中心へ達することが可能となり、この治療経過中に疼痛の緩和が即効的に見られる。そして 10~ 15分後、再び冷却・圧迫と高位保持を行う」など、 MLD・ CDPによる外傷と手術による浮腫の軽減と効果について述べています。
痛みとMLD
Pritschowの記述を引用すれば「徒手リンパ排液法( MLD)は理学療法の一種であり、疼痛治療の際に複合的な補完的処置として提供されている。徒手リンパ排液法は炎症性の浮腫において、炎症伝達物質を排出し、間質圧を低下させることに役立つ。皮膚上への触覚刺激を介して痛みの抑制が行われ、 MLDの副交感神経活動亢進作用が患者に鎮静を生じる。
痛みや強い充血が起こらないとの前提に立てば、この際のリンパドレナージュ( MLD)の目標は、全ての筋膜外および筋膜下に発生するむくみと構造組織の細胞増殖に対し、うっ滞解消と柔軟化をすることといえる。それゆえ、 MLDは複合的疼痛療法における補完的方法とみなされている」とされています。
テクニックとしては「圧の強度は様々に変化し、浮腫の形態と痛みの程度に適応させる。近位側に存在する局所リンパ節は排出を容易にするため、遠位側に存在する組織よりも前に施術される。患者に快適さと安心をもたらすようにする」ことが必要とされています。
MLDの効果については「起始リンパ管でのリンパ生成が増加すると、リンパ分節の収縮頻度と振幅が大きくなる。毛細リンパ管ではリンパ時間流量の上昇は 3倍から 4倍になることがリンパシンチグラムにより指摘されている。
古代ギリシャで「吸収管」と呼ばれたリンパ管は、間質において陰圧を生じる。集合リンパ管における高い内圧は、存在する吻合により機能的調整が可能であり、連続する集合リンパ管とリンパ分水嶺の架橋によって皮膚リンパ管の代償性拡張も発生する。
リンパ管やリンパ節の損傷後などに集合リンパ管が十分に機能しなければ、間質液は MLDを用いて前リンパ通液路や組織的溝路、皮下の無弁のリンパ管ネットワークを介して、隣在する無傷の集合リンパ管へ移動が可能である。 MLDの副交感神経活動賦活作用は皮膚の血流低下を生じるため、患者の多くは体温の低下を感じる。
皮膚の機械的受容器(メカノレセプター)の求心性インパルスは、中枢神経系での興奮過程(反射・知覚)を発生させるだけでなく、常に抑制過程をも生じさせる。
これらの抑制は知覚される痛みが軽減するまで減弱として作用する( M.Zimmermannによる)」といった機序を挙げています。
「浮腫は回復と損傷プロセスのほぼ全てに症状として見られる。浸出物による強度の間質の浸潤は創傷治癒の際に重要な役割を果たす。しかし多くの場合この反応は過剰であり、相応に抑制する措置を必要とする( Schobert)」「これらの浮腫は常に蛋白過多、つまり間質での蛋白質濃縮が正常値より 1g/%から 2-3g/%かそれ以上過剰である。その結果、関係するすべての組織構造の過剰再生を伴う慢性炎症となる」と指摘しています。また、痛みが生じている場合、「痛みと炎症を伝達する内生的化学物質の生成と遊離が強化される。ブラディキニンやプロスタグランジン E2が付加される以上に乗数的に侵害受容器に作用する。
侵害受容器から神経ペプチドとその他の物質が遊離される。それらは強度の血管拡張、血管浸透性の上昇、ヒスタミン遊離を伴うマスト(肥満)細胞脱顆粒(反応)やその他の細胞性の反応を引き起こす。
従って神経性炎症を述べる毛細血管と細胞間の通過距離「 Transitstrecken(D)」が大きくなるという経過で、浮腫は常に進行する( Asdonkによる)。つまり、組織への供給と吸収が阻害される」とされます。
また、「同時的に細胞間隙が充満し、場合によっては間質圧が顕著に上昇し更に痛みを発生させる。そして浮腫では特殊侵害受容器の活動電位を生み出す、酸 -塩基状態の変化が起こる( Brügger 1980)」とも指摘されています。
まとめれば、疼痛治療の際の MLDの目的はこれら疼痛に伴って発生する生体の反応に対し、「腫脹の軽減と組織の緊張緩和。その結果としての間質圧の低下。皮膚上への軽い接触刺激によるメカノレセプターの刺激は抑制細胞(ヘム細胞)を介して疼痛の緩和。炎症伝達物質をリンパ性負荷と共に排出する」ことです。
現在